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第60話

「おめえら……やけに別嬪さんやっち……おいらにも味見させてみいや……特にこの白い童の……」 「おいおい、せめて逆ノ目廓がある世逆島の船着き場に行くまで待てえや……」 「……それもそうやさな……あと少しの辛抱やか――」 船頭とその仲間らしいもう一人の男との下卑た会話が聞こえてきて、僕はそんな話をされても何の反応も示さずに心ここにあらずの王花様の体をぎゅっと抱き締める。 白い童とは王花様の事だ―――。 つまり、この男たちは僕らの体を狙っていて――どうやら今すぐに襲おうとしている訳ではないらしいが逆ノ目廓がある世逆島の船着き場に着いた途端に襲いかかろうとしているらしい。 ――ちゃぷ、 ――ちゃぷ、ちゃぷ ……がたんっ 吸い込まれてしまいそうな程に暗い夜の波間を、どのくらい船が漂ったのだろうか――。 「ほら、着いたやっち。二人共、こっちに来いや……おめえさんがさっき渡した銭はいらんち……その体で払えやな……」 「や、やめっ……やめて……離して下さいっ!!」 先程渡した船代の銭を船頭が返そうとしてきて手を此方へと伸ばし、そのどさくさに紛れて船頭が僕や王花様の体を触ろうとしてきたため、王宮から脱出する前に牢屋の中で世純様が渡してきた小刀(眠赦様が世純様を手にかけようとした時に地面に落としたものだ)を懐から取り出すと、僕は己と王花様の身を守るために無我夢中で船頭の手首に向かってそれを振り下ろしていた。 ――唐突に手首を切られて慌てふためき、小声ながらも悲鳴をあげている船頭達。 (まずい……このままじゃ……騒ぎになってしまう――しかも、こんな見知らぬ土地で……早く逃げなくては……) そんな思いに駈られて、急いで王花様の手を取るとーーそのまま脱兎の如く船着き場から二人で共に走り去るのだった。

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