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第61話

◇ ◇ ◇ ◇ ――今が夜で助かった。 先程、船着き場の船頭の手首を切ってしまった時に僅かに上衣に飛び散った血は暗闇に紛れて分かりにくいし、船着き場の辺りは夜だからか人もいなく――恐らくは船着き場の出来事は誰にも知られてはいないのだろうと感じた。 しかし、油断は出来ない。 いくら、夜であり人目がなくて見られている可能性は少ないとはいえ、あの船着き場の船頭達が僕らを追ってくるかもしれない。そして、もしもそうなったと仮定して逃げきれず、そのまま彼らに捕まってしまったら――全てが水の泡になってしまうのだ。 僕は王花様の小さな手を握りしめ、決して離すまいと心の中で誓いながら必死で走り続けた。船着き場から少し離れると、町に赤い提灯の灯りが煌々と光り輝き――人目も多くなってきた。 おそるおそる後ろを慎重に振り替えると、先程予測した通り、後ろから怒りで声を荒げて僕らを追いかけてくる船頭の姿も見える。 (このままじゃ……まずい――とりあえず……どこかに隠れて彼らをやり過ごさないと……) 慌てふためいている僕の目に――町で開いている出店の脇に、ちょこんと置かれている人が二人ならば余裕で入れそうな程に大きな壺らしき物が飛び込んできた。ちらり、とすぐ側にいる店主らしき人物の姿を確認してみると、客と話込んでいて身を屈めて息を殺している僕らの存在には気づいていない。 これを利用しない手はない、と思うと慎重な足取りで大きな壺へと近づいていき――僕と王花様は中に隠れて、この危機をやり過ごそうとするのだった。

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