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第64話

上室屋とは、先程――僕と王花様が塵入れの壺の中に隠れていた店の名前なのだろうか―――。 いや、それは兎も角として目の前にいて塵まみれの僕らを訝しげに、それでいて心配そうに見つめてくる人物のなんと美しい事か――。 「ちょいと、聞こえているでありんすか?わっちは別に――やましい気持ちで尋ねてる訳じゃないでありんすよ……薊、お前は何か知らないん?」 「弦月・水仙花魁……おいらにもよく分からないんですけども……何だか訳ありみたいなんだっちゃ――」 「……そうでありんすか。兎も角、このままじゃ可哀想でありんすね――旦那さんには、わっちから説明するわ……さあ、此方に来るでありんすよ。ああ、それと……わっちは、水仙いう花魁でござりんす」 と、塵まみれの衣服を纏い呆然と立ち尽くしている僕らに訝しげな表情を浮かべつつも、周りをすれ違う人物達とは違い、侮蔑の気持ちを露にしてこない薊という童と水仙花魁と呼ばれた豪華絢爛な着物を身に纏っている上品そうな人から半ば強引に手を引かれて――別の場所へと連れて行かれてしまうのだった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 「遅い……一体、何処で油を打ってたんだ――目白・薊――まったく、お前にはほとほと困ったもんだ……まあ、減給くらいで勘弁してやるがな」 「申し訳ないっちゃ……旦那さん。少し予測外の事が起こりまして……遅くなってしまいましたっちゃ」 目白・薊と呼ばれた童と豪華絢爛な着物を身に纏った水仙花魁という人に、ある場所へと連れて来られた時―ー其処には、またしても僕らの知らないでっぷりと太った狸のような中年の男の人が苛々した様子で腕を組みながら立っていたのだ。 顔では怒っていても、どことなく老人が孫に対して甘いような感じの声色でその中年男が目白・薊へと言い放つと、ふいにーーじろり、と厳しい目付きで塵まみれの汚い衣服を纏っている僕と王花様を睨み付けてくるのだった。 「……予想外の事とはーーこの汚ならしい餓鬼共の事か?」 「それは、わっちから説明するでありんす――実は、旦那さん……この童らはこんな身なりをしていても相当見目が良いでありんしょう?だから、わっちが旦那さんの店である逆ノ目廓に来て――新しい花魁になる気はないのんか、と声をかけたでありんす――。旦那さん、如何でありんしょう?」 ――その水仙花魁とやらの思わぬ言葉を聞いて、僕は後頭部を殴られてしまったのではないかと思うほどの途徹もない衝撃を抱いてしまうのだった。

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