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第65話

(そ、そんな……この水仙という人の言葉だと……まさか僕だけじゃなく王花様までも――花魁として育てあげるって事だ――それだけは……それだけは何としても阻止しなくては……) 王宮に来る前に世純様から花魁が、どんな事を逆ノ目廓でしているのかという事を簡潔にだが聞いていた。彼曰く――花魁は廓に来る客に対して、その身を売るのが仕事らしい。 王宮内で劣等種だった僕ならばまだしも、例え心を壊されたとしても、いずれは一国の王となる可能性のある王子である王花様に――そのような事をさせる訳には――どうしてもいかないのだ。 「ふ、ん……成る程なぁ……確かに弦月・水仙花魁の仰る通り――面は悪くねえ……特にこの雪のように白い餓鬼は……」 ――ぐいっ と、急に旦那さんと呼ばれた狸のような中年男が僕の隣でぼんやりと虚空を眺めていた王花様の腕を力強く引いて――その勢いで、彼から一方的に抱き寄せられてしまう。そのせいで、旦那さんと呼ばれた男の身も塵にまみれてしまうが――それを気にする素振りもない。 それよりも、どことなく厭らしい目付きで王花様の肢体を見つめてくる彼に対して嫌悪感と怒りを抱いてしまった僕は思わず身を乗り出すと、そのまま王花様の腕を掴み、旦那さんの体から自分の元に引き寄せようとした。 ――じろり、 旦那さんが蛇のように恐ろしい目で王花様を自分の元に引き寄せようとした僕に向けて睨め付けてくる。思わず、その余りの恐ろしさに――びくり、と体を震わせてしまう。 「この糞餓鬼が……っ……!!」 ――ひゅっ…… ふと、僕の耳に――これまで聞いた事がない変な音が聞こえてくる。おそるおそる、音が聞こえてきた旦那さんの方を見上げると、いつの間にか手に持っていた鞭を真上で降り上げて、そのまま僕に向かって降ろそうとしている音だと――ようやく気付いて、ぎゅっと目を瞑ってしまうのだった。

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