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第66話

(そうか――この旦那さんと呼ばれた男の人は――おそらく鞭打ちをして僕の体を痛め付けようとしているんだっ……) 余りの恐ろしさから目を開く事もできずに、僕は隣で何の感情も示さない王花様の体を庇うために覆い被さりながら、そのような事を思うのだ。いつ来るかも分からない痛みを想像しつつも――出来るだけ身を縮こませ、同時に小刻みに身を震わせつつも、その恐怖に耐えようと必死で歯を食い縛る。 ――びしっ……!! しかし、一向に旦那さんと呼ばれた男から鞭に打たれる事はなく――何故なのだろうか、と怪訝そうに恐る恐る顔をあげようとした時の事だった。 確かに、僕の耳に――旦那さんと呼ばれた男が鞭打ちをする痛々しい音が届いてきた。 しかし、旦那さんが鞭打ちをした相手は僕ではなく――まして、僕が庇っていた王花様でもない。動揺しきってしまった僕のすぐ側で慌てふためきながら此方を見つめてくる《目白・薊》でもないし、もちろん旦那さんよりも立場が上であろう《弦月・水仙花魁》でもない。 (あ、あれは―――僕を庇ってくれて代わりち鞭打ちされたあの方は……燗喩……殿……?) 本来であれば旦那さんと呼ばれた男から鞭打ちをされていた僕を庇ってくれたのは、両腕をを目一杯に横に広げながら、鞭打ちの痛みに耐えつつ苦悶の表情を浮かべていて――しかも、僕の愛しい人である燗喩殿に瓜二つな男の人だったのだ。

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