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第69話

その後、水仙花魁達と共に――逆ノ目廓に向かって歩いて行くが、その間――燗喩殿が僕に何かを言ってくる事も、僕が彼に何かを言う事もなかった。 ――久々に再会出来たというのに、今はこんなにも心の距離が遠い。 ぽん、と大きな手で頭を撫でられ――目を向けると、水仙花魁が優しく頬笑みかけてくれる。きっと、僕は愛しい燗喩殿と言葉を交わせすらできない寂しさから切なげな表情を浮かべてしまっていたのだろう。 「わっちが面倒見てやるから……大丈夫でありんすよ。不安な事ばかりでありんしょうけど……そんなめんこい顔に涙は似合いやせん。ほれ、これあげるから――笑いや?」 ――切れ長の美しい目。 ――白粉を塗り、雪のように真っ白な肌に椿の花のように真っ赤にはえる唇。 ――腰までの長い黒髪に色とりどりの高級そうな簪が目立つ。 ――豪華絢爛な黄色の着物に、少し濃いめの黄緑色の帯。 今一度、じっくりと見てみても――弦月・水仙花魁はとても美しいという事が分かる。王宮内の妃宮に暮らす女の人達とは、また違う美しさがあると僕は感じる。 「ほれ、遠慮せず――はよう受け取ってくれなんし?」 「で、でも……これ……口紅―――」 弦月・水仙花魁が穏やかな笑みを浮かべながら僕に差出してきた物――それは、本来ならば女の人が使うべき口紅だったのだ。

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