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第76話

「そうや……これから新人花魁として此処に留まる事になるお前さんらに改めて名を授けなあかんのだったわ……そうさな、お前さんは【雲隠れ・鈴蘭】――そして、この白い雪のように童は――」 「あ、あの……この子は――花魁としてではなく、花魁の付き人の禿として働かさせて貰いませんか?」 「なんや……何か花魁として働けない訳でもありんすか?まあ……わっちから旦那さんにそのようにお願いする事は可能だけんど……そうさな、お前さんがわっちに奉公してくれるのなら考えてもいいでありんすよ?」 王花様はこの国の王子だからです、とは口が裂けけても言えずに、言葉を失ってしまった僕に【弦月・水仙花魁】が提案してきたため、僕は目を丸くして鳩が豆鉄砲を喰らったかのような驚きの表情を浮かべながらじっと【弦月・水仙花魁】の言葉を待つしかなかった。 「……雲隠れ・鈴蘭―――わっちは今宵は色々あって疲れたでありんす。もう、一歩も動きとうない。だから、わっちの弟の【新月・睡蓮花魁】をこの部屋に連れてきて欲しいでありんすよ。あの子も手当てしてあげな――いかんからな。この童は――わっちが見てるさかい」 「は、はい……分かり――ました」 少し緊張しながら【弦月・水仙花魁】の奉公とやらと内容の言葉を待っている僕の顔を見て、くすり、と可笑しげに笑いかけてくる彼は――やはり母上である尹先生によく似ている。 僕の隣に敷いてある布団に横たわり寝息をたてながら、すやすやと眠る王花様の様子を心配そうに一瞥しつつも、僕達を助けてくれた【弦月・水仙花魁】の要望ともいえる命令を無下にしてはいけないと感じて――この時刻であれば睡蓮花魁は此処にいるだろうという目星を付けている場所を彼から聞いた僕は一抹の不安を抱えながらも、そのまま水仙花魁の部屋から出て行くのだった。

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