77 / 151

第78話

「お、お待ちくださいませ!!燗喩殿、何故……何故、貴方様は此処では言葉を交わすことはおろか――僕の顔すら見て下さろうともしないのですか?僕は……僕は――王宮から脱出するという禁を犯してまで貴方を追いかけて救おうとしているのに――何故、何故なのですか!?」 ぽろ、ぽろと自然に溢れてくる涙を止める事すら出来ずに――僕は踵を返そうとする燗喩殿の着物の裾を引っ張ると、そのまま声を震わせつつ己の想いを彼へと尋ねる。 ぱた、ぱた――と涙が床に落ちてその場に染みを作りあげていくが、そんな僕の様子などお構い無しといわんばかりに眉ましたひとつしかめる事もなく能面のよつに無表情のままの燗喩殿はじっと僕の顔を見据える。 長く続いている廊下には他に人気がないため、惨めな僕の泣き声しか聞こえず、暫くの間は静寂が辺りを包んだのだが、遂に静寂に耐えきれなくなったのか燗喩殿が遠慮がちに口を開く。 「そんな事を我は望んでいない。魄、お主は……いいや、お主達は――すぐに……此処を出ろ。我はずっと此処にいても構わない……なにせ、此処は――」 「い、いいえ……それだけは……それだけは絶対に嫌です!!巻き込んでしまった王花様には申し訳なくは思っております。ですが、このまま貴方様を救わずに――何も為すことも出来ずに王宮に戻るなどあってはならない事です」 「魄よ……お主は何故――我を救う事に執着する?しかも、王宮を抜け出すなどという禁を犯してまで……。答えよ、そのわけは何故か――」 すう、と―――深く呼吸をする。 今こそ、ずっと心の中に留め続けていた嘘偽りのない想いを燗喩殿へ告げる時なのだ。 「それは……僕が貴方様と共に――運命を共にしたいと願う程に……深くお慕い申しているからでございます」 ――ぎゅうっ…… 思わず――僕は燗喩殿の体を抱きしめてしまうのだった。

ともだちにシェアしよう!