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第79話

「……お主の気持ちは、天に舞ってしまう程に嬉しく思う。しかしながら、それゆえ……お主らには此処から出て行って欲しいのだ。特に、魄――お主は、王花様以上に此処から出て行って欲しい」 「ですから、それは……何ゆえなのですか?僕にすら言えぬ事――なのですか?」 「残念ながら――此処から出て行って欲しい理由については……今は詳しい事は言えぬ。だが、これだけは告げよう。魄よ、我はお主を心から愛している。正直に言えば、もしも無事に王宮へと戻る事が出来たなら運命の番の相手となって欲しいとも思っている……お主は、それを了承してくれるか?」 その燗喩殿の言葉を聞いて、僕の方こそ天に舞ってしまいそうな心地だった。ふわり、と――久しぶりに嗅ぐ燗喩殿の香油の良い香りが辺りに漂ってきて、僕は――この未知の世界でもある逆ノ目廓に来てから初めて心の底から安堵するのだ。 ―――そして、僕は少し遠慮がちに口を開く。 「勿論でございます――。僕が心の底からお慕い申している貴方様のその言葉を断る訳がありません。ですが、それには貴方様自身がいなくては話になりません……僕が、必ず貴方様を――王宮へ連れ戻します。勿論、王花様もでございます……それまで、僕はこの逆ノ目廓から出て行くつもりは毛頭ございませんので覚悟なさってください」 「…………」 僕の覚悟の言葉を聞いた燗喩殿は、尚も何かを言いたげに此方を一瞥するが――何を言っても無駄だと悟ったからか、諦めの表情を浮かべつつ、フッと軽い笑みを溢すと――そのまま、踵を返して僕が歩こうとしている方向とは逆の方向へと歩いていくのだった。 後ろ髪を引かれる思いで、彼の姿を見つめる僕をその場に残して―――。

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