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第81話

「あんれ……兄さまが連れてきためんこい童じゃねえの?おらの部屋の前で……何してるん?もしかして、おらになんか用があるん?」 もがきながら床へ降りようとする白猫を必死で両手で抱えながら、桃色の生地に深い緑色の帯の高級そうな着物を身に纏い、癖のある口調を隠そうともしない素直そうで可憐な【新月・睡蓮花魁】が思わず見惚れてしまいそうになる程に可愛らしい笑みを浮かべながら僕へと話しかけてきた。 「あんれ……まあ、さっきまで着てた襤褸(ぼろ)の衣を抜いで着物に着替えると――途端に別嬪さんになるんね。これ、水仙の兄さまがくれた着物やろ?菫の兄さまが……新人花魁にこんなもんくれる訳ないしな……なして、おらたちは血の繋がった三兄弟ゆうんに……あげに仲が悪いんか……おらにもわからん」 にゃおー……みゃお……みゃー…… 「あっ…………待ってや……びゃくや……!?」 ――猫の名はびゃくやというらしい。 する、りと両手の中から白猫がすり抜けてから、長く続いている廊下の先を自由きままに歩いていくのを見て【新月・睡蓮花魁】ら寂しげに――ぽつり、と呟いたが僕はそれに対して何と言っていいのか分からずに言葉が詰まってしまい――暫しの間、辺りに気まずい空気が流れるのだった。 「それで……おらになんか用があったんやろ?用件は――なんや?」 ぱっ、とすぐに寂しげな表情を可憐な笑みへと変えてから【新月・睡蓮花魁】は佇みつつ戸惑いの表情を浮かべるばかりだった僕へと尋ねてきてくれたため【弦月・水仙花魁】が部屋へと来るように言っていた事を彼へ告げるのだった。

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