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第84話

◇ ◇ ◇ ◇ 「ね、ねえ……そんな場所で泣いてると――風邪を引いてしまうよ?」 「……っ……!?」 まさか、昼間に知り合ったばかりの僕が一人で、こんな場所にまで来たとは思いも寄らなかったのだろう―――。 「おらに……な、何の用だっちゃ……」 真っ赤に泣き腫らした目を此方へ向けて――目白・薊は動揺しながらも口を開いてきた。そして、着物の裾でごし、ごしと涙を溢れさせた目元を擦りながら気まずそうに僕へと尋ねてくる。 「その―――何か、辛い事でもあったの?そんなに目を真っ赤に腫らしてしまう程に……耐え切れないような辛い事があったの?」 「…………」 (やっぱり……知り合ったばかりのよそ者の僕には話してくれないか……仕方がない……彼のことは水仙花魁にでも任せるか――) と、問いかけに対して無言になってしまった目白・薊の姿を見て――ふう、と軽くため息をついて踵を返そうとした時の事だった。 「……おら、この廓を出てから海のずっと向こうにある王宮に仕えるのが―――昔からの夢なんだっちゃ」 「えっ…………」 ざあ、と風が吹き―――王宮の中庭と同じように見事に咲き誇る桜の花弁がヒラヒラと空中を舞う。 まさか、目白・薊の口から―――故郷である【王宮】という言葉が出てくるとは思わず、僕は目を丸くしながら彼を見据えてしまうのだった。

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