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第85話

「な、何で―――どうして王宮に行きたいの?王宮は……酷い場所だと聞いたよ。君も――僕と同じΩなんでしょ……この逆ノ目廓は――Ωでも差別されたりはしない筈なのに……それなのに、それなのに……何で王宮に行きたいなんて……」 「……違う……違うっちゃ―――この逆ノ目廓には差別がないなんて、旦那さんや他の客達が好き勝手に言っているだけなんだっちゃ……特別扱いされるのは――美しい花魁だけ――おらみてえな花魁志望の禿ごとき――ただのΩの童は――客から性奴隷として、花魁までのしあがるしか方法がない……」 『きっと、お客様から酷い事されたんやろ――』 と、ここにきて―――やっと先程、睡蓮花魁がぽつり、と呟いた言葉を思い出した時には既に自然と体が動いていた。 僕も目白・薊と同じように目に涙を溢れさせながら、身を縮こまらせて必死で苦痛に耐える灰色の髪を持った小さな童の体をぎゅうっと抱き締めていた。 「ごめん、ごめん―――君の気持ちも分からずに……無神経な言葉を言い放ってしまって――でも、君みたいに心が強い人は……きっと、夢を叶えて……王宮に行ける……」 「……へへ、ありがとうっちゃ……絶対に花魁にまでのしあがって、王宮に行ってやるっちゃ……もう、おらは泣かないっちゃ―――」 そう言いながら、赤く腫らした目を此方へ向けて無邪気な笑みを浮かべる薊を見て――まるで、野に咲く雑草のように強い子だと思った。 「これ、睡蓮花魁から頂いたんだ。一緒に食べよう……それと、それと……もしも君さえ良ければ僕と親友になってほしい」 「……親友……って……何っちゃ?」 「悩みも――苦しみも……包み隠さず話して、互いを信じ合える存在の事だよ――差し出がましいのは分かってるけれど……どうかな?」 その僕の提案を照れくさそうに笑って受け入れてくれた目白・薊とは―――いずれ、深い仲となるのだが、それはまた別の話だ。 兎も角も、こうして僕は逆ノ目廓で目白・薊という親友を得る事になったのだった。

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