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第88話
道標のように等間隔で廊下に落ちている《星屑糖》を辿っていくと―――ある部屋の前でぷつり、それが途絶えている事に気付く。
【火鳥満月の間】と襖の上に飾られている看板に書かれているその部屋は、最近になってようやく覚えてきたばかりの【満月・菫花魁】の寝所の筈だ―――。
その部屋の前は比較的、炎や煙が蔓延していないため――とりあえず襖へと耳を当ててみる。すると、何人かが――ぼそぼそと小声で会話しているような声が聞こえてきたため小刻みに震えてしまう体にむち打ち――おそるおそる、その部屋の襖を開ける。
―――其処には、
目隠しをされて縄か何かで体を拘束されてしまっている【満月・菫花魁】と郭で働いている今は鈴女・露草と呼ばれている燗喩殿―――そして、二人と同じように身動きすらまともに取れずに、ある人物から強引に頭を片足でぐりぐりと踏みつけられ結果的に床へ這いつくばる格好となり、しかも首筋に刀を突き付けられている郭の旦那さんの惨めな姿があった。
「おや、こりゃあ―――どういう事でありんすかね……招かれざる客が来たわ……なあ、よそ者の童さんたち?さて、どうするでありんすかね……睡蓮?大方、おめえがこの童さんらを此処に呼んだでありんすやろ?この兄を裏切ったね……睡蓮……」
「……っ……す、水仙花魁様……いいえ、兄様……もう、もうこのような不毛な行為はお止めになりましょう?そんな事をしても――何もっ……」
―――ぐりっ……
「―――黙りや、それ以上言うと……睡蓮……おめえが大好きなこの狸爺の命はないでありんすよ……大怪我をしたおめえの大事な白猫のようには―――なりたくないでありんしょう?」
僕を逆ノ目郭に連れてきてくれた時のように、にこりと―――穏やかな笑みを浮かべたまま、水仙花魁は苦し気に呻き声をあげる旦那さんの首筋に当てている刀に力を込める。
そのせいで、ボタボタ……と旦那さんの血で―――床に赤黒い染みが出来るのを呆然とした表情で見つめるのだった。
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