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第89話

「……す、水仙花魁様……お願いですからーーこの方々のお命だけは……っ……」 「ああ、そんなに可憐な顔を切なげに歪ませちゃいけんでありんすよーー睡蓮、わっちはその可憐な顔が苦痛で歪む光景など見とうない……可愛い可愛いわっちだけの睡蓮ーー例え血の繋がりのある兄弟だろうと……わっちはおめえを愛してい……」 水仙花魁が呆然としている僕らになどお構い無しに傍らにいて泣きじゃくっている睡蓮花魁の頬を掴みながら恍惚とした顔でそう呟きかけた時―――、 「おい、水仙……いい加減、睡蓮に歪んだ愛を一方的に押し付けるのは止めろ――おめえのは本当の愛情なんかじゃねえ……一方的な歪んだ愛を利用して犯罪の片棒を睡蓮に押し付けてるだけだ―――本当の愛ってのは……ぐっ……ううっ!?」 ―――げぼっ…… なんとか自力で猿轡として口元に巻かれた布を外し、睡蓮花魁を愛おしそうに見つめていた水仙花魁へと鬼のような形相を浮かべつつ己の思いを怒りを露にした口調で言い放っていた菫花魁が―――急に吐血し、そのまま畳へと勢いよくうつ伏せに倒れ込んでしまう。 「す、菫花魁様……大丈夫ですか!?」 「おっと……王宮から来たよそ者のあんたらは――わっちらの会話の邪魔しないでくれるか。菫―――邪魔者のあんたもようやっと、くたばるか……やはり、口紅に毒を仕込んどいて正解やったわ……ああ、其処のよそ者の童さん――あんた、あの日……菫に口紅を奪われてよかったなあ……じゃなきゃ、今頃――あんたがこうなっとったと思うでありんすよ」 「……っ……な、何で……どうしてですか?何故、優しいあなたが……こんな酷い事をっ……しかも、実の兄弟である菫花魁様にまで……!?」 急に吐血し、畳の上へと勢いよくうつ伏せに倒れてしまった菫花魁を何とか助けようと彼の元へ近寄ろうとした時―――、 ―――バシ……パシ……バシッ……!! 僕の体を目掛けて―――般若のように恐ろしい顔をした水仙花魁が容赦なく鞭を振るうのだった。 そんな時でさえ―――水仙花魁は、僕らと出会った頃のように穏やかな笑みを浮かべているのだった。

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