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第91話

―――ドンッ…… 「……っ…………!?」 このような異常な事態に陥っても虚ろな表情を浮かべるしか出来ない王花様の体を両手でぎゅうっと固く抱きしめつつ――尚もじり、じりと後退りして大きな瞳いっぱいに涙を溜めて溢れさせ悲しげな表情を浮かべている睡蓮花魁は兄である水仙花魁の命令に渋々ながら従うために――縄を持ち、僕と王花様にじわり、じわりと近寄ろうとしてくる。 無情ながら、僕と王花様の最後の抵抗も虚しく壁にまで追いやられてしまう。声に出しはしないものの、その可憐で形のよい口を開きかけた睡蓮花魁が《ごめん》と弱々しく謝ったような気がした。 ―――ビュッ……!! 「あ、あうっ…………!?」 と、その時だった―――。 この異常事態が大きく変わったのは――今までその身を拘束されてしまっていた筈の燗喩殿が恐ろしい瞳を此方に向けながら、傍らで吐血して畳の上に倒れてしまっている菫花魁の頭についていた金色の簪を、僕らを捕らえようとして背後を向いている睡蓮花魁の足元を狙って勢いよく投げたのだった。 そして、為す術もなく足首辺りから血を流し――そのまま、脱力した睡蓮花魁は畳の上にしりもちをつくような形で座り込んでしまう。 この絶好の機会を逃すまい、と―――僕は王花様をしかと抱きしめながら必死で助けてくれた燗喩殿の元へと駆け寄った。 「そ、そんな……何故―――拘束を……!?」 「……王宮で働いているαの誰も彼もが――軟弱な男だと勘違いしたのが……お主の敗因だ。私は元王宮の赤守子――自分の身を守る術くらいは心得ている。縄からすり抜ける事など――幾度となく経験した……だからこそ、お主らが油断するのを待っていたのだ」 まさかの燗喩殿の反撃に若干焦ったような表情を浮かべながら忌々しげに燗喩殿を睨み付ける水仙花魁と、畳の上にへたり込みながら泣きじゃくる睡蓮花魁なのだった。

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