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第96話

◇ ◇ ◇ ◇ 「お帰りなさい―――魄、貴方なら……きっと王宮を脱出し、いわれなき罪で流刑に処された島へと燗喩殿を助けに行くと思っていました。なんたって貴方は…………ああ、此処では止しましょう」 「それと、魄――あなた方は重罪には問われません。私が、それだけは何とか凌ぎました。しかし、牢には戻れ――との御命令です……私の部下となった翻儒が共に行きますゆえ、牢に戻った方が良いでしょう……それと、燗喩殿――あなたは赤守子から黒守子へと降格するとの事です」 久々に目にした王宮の門へと着いた途端、僕はあまりの不安で中に入るのを躊躇してしまう。もしも、王宮を脱出した僕らに対して思わぬ重罪が課せられてしまったら――どうしよう、た今さら怖じ気づいてしまったのだ。 ふっ、と―――僕の頭の中に門を開いた途端に大勢の警護人達が鬼のような形相で僕らを待ち構えている光景が頭に思い浮かぶ。そうなっていても可笑しくはないような重大な事を――僕らはしてしまったのだ。 (いや、そうなる事も覚悟の上だ――と王宮を出る前に誓ったじゃないか……門を開けた時に何が起ころうとも――それを受け止めるしかないんだ―――) と、決意をし――おそるおそる門を開けようとした時に―――予想外の事が起きた。門が内側から、誰かによって開かれたのた。 門の開かれた先には――相変わらず穏やかな笑みを浮かべた母上と、そしてその傍らに無言でじっと佇む幼なじみの翻儒の姿があり――そして、ゆっくりとした足取りで近寄ってきた後に上記の言葉を母上から言われたのだ。 ―――燗喩殿がいわれなき罪で島に流刑に処された後、母上が王宮の守子達を取り纏める赤守子となった事。 ―――そして、僕の幼なじみである翻儒が母上の部下となり熱心に働いてくれている事。 ―――母上が赤守子となった事で、王宮を脱出した僕と王花様が重罪となる事を阻止するように父である王を何とか説得してくれた事。 そのような事を、簡潔にだが教えてくれた母上だったが―――ふいに、僕の側で所在なさげに立っている薊の姿を怪訝そうに一瞥する。 母上は、いや―――王宮内で暮らす守子達はよそ者である薊を受け入れてくれるだろうか――。 新たな不安が頭を支配する―――。 「名も知らぬ童よ―――あなたは、もしや王宮で働きたいのですか?」 「えっと……は、はい……実は身寄りがなくて……どうしても王宮で働きたいんだっちゃ……」 僅かばかり強い口調で母上から聞かれた薊は途徹もない緊張のせいか、その小さな身をもじ、もじと捩らせながら――遠慮がちに母上からの問いかけに答えるのだった。

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