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第99話
◇ ◇ ◇ ◇
ふいに―――部屋の襖を勢いよく開けられ、世純は珍しく動揺しつつも、先程から弱々しい声で泣きじゃくる赤ん坊を落としてしまわぬように必死で両腕で抱き抱えていた。
「な、何だ……貴様は―――許可も取らずに他人の部屋の襖をあけるとは不愉快極まりない。それに我は今まで貴様の顔を見た事がない――貴様、何者だ?」
「あ、あの……その、申し訳ございませんっちゃ……赤ん坊の弱々しい声が聞こえてきたものですから―――つい、入ってしまいましたっちゃ……」
と、そこまできて―――不躾な乱入者の姿をまじまじ、と見つめる。そして、まるで天地がひっくり返ってしまいそうな程に大きな衝撃を受けた。
顔どころか名前すら知らぬ乱入者の面影が――今は亡き最愛なる黒子――いや、美魄と見事なまでに重なり合ってしまうのだった。
容姿は―――美しかった美魄とは似てもにつかずみすぼらしいというのに、困ったような表情を浮かべながら己に対して、はにかむように頬笑みむその乱入者の風貌は―――かつて、黒子が生きていた時に何度か己に向けられたものとよく似ている、と世純は感じざるを得なかった。
「……び、びはく…………」
「えっ……ち、違いますっちゃ……おいらの、おいらの名は―――」
思わず今は亡き最愛なる人の名を呟いてしまった世純に対して、その乱入者――薊は尚も恥ずかしそうに微笑みかける。
そんな名も知らぬ乱入者の姿さえ、今は遠い世界へ行ってしまった美魄の姿と重なり合ってしまった世純の頭の中に―――ある夜の過去の記憶が、ふっと浮かびあがるのだった。
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