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第105話
王宮内で唯一、本当の僕になれる場所――。
それは、王宮に凛とそびえ立つ桜の木の真下――。
そこで座りながら過ごす時間が――とても幸せなのだ。
惜しむべくは――今は此処に僕一人しかいない事だ。かつては翻儒という幼なじみが側にいて、そして少し前までは心を壊してしまう前までの――元気な王花様がいた。
しかし、今は――僕ただ一人。
(しまった……つい、王花様をあの場に放ってきておいてしまった……どうしよう、今からでも彼処に戻ろうか――)
と、桜の木の真下で座っていたため立ち上がるために腰を上げようとしたものの、まるで重石が乗っかっているかのようにぴくり、とも動かない。いや、体自体が動かない訳ではない。
それは心が――魄の心が今まで一緒にいた心を壊されてしまった王花様と共にいる事を……今更ながら重荷に感じてしまっている確固たる事実なのだ。
(駄目だ……駄目だ――王花様がああなってしまったのは……僕のせいなのだから……早く……彼処に戻らなくては……は……やく……)
そんな事を心の中で思っているうちに――いつの間にか疲弊しきった魄は眠りの世界へと誘われてしまうのだった。
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