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第107話

――ほぇぇ……ほぇ、ほぇぇ…… 久方ぶりに会った世純と会話をしていた僕だったが、ふいに何処かから赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。しかし、辺りは薄暗いため――泣き声が聞こえる方向を見てみても姿が明確に確認出来ない。 「……くそ、薊め――部屋で待っていろと命じた筈なのに……もし、あの赤ん坊の身に危機が迫れば――大変な事になるというに……」 「世純様、今……薊の名を口にしましたか?何故、僕の親友となった薊と面識があるのです?それに、赤ん坊とは……一体……」 「ああ、それは…………」 と、世純は薊と面識がある理由について話してくれた。しかし、赤ん坊の事については口を閉ざしてしまう。そんなにも話しにくい事情があるのだろうか、と思わず僕も彼につられるようにして口を閉ざし沈黙が辺りを包み込んでしまった時――、 ――どさっ…… 「い……痛っ……」 つい先程まで世純と話していたばかりの張本人――薊の切なそうな声が聞こえてきたため、思わずその場から立ち上がり薊の方へと近付こうとする。 どうやら、泣き声をあげていた赤ん坊をあやすため背中におぶりながら夜の中庭を歩いていた薊が地面に落ちている何かに躓いて転んでしまったらしい。 薊が躓いてしまったその何かは僕の目にはぴくりとも身動きせずに、ぐったりと倒れてしまっている人の姿に見えたため、思わず息を飲んでしまう。 しかし、未だに転んだ状態のまま地面に伏せっている薊の身が心配になり――、 「あ、あざ……み……っ……!?」 つい、震える声で薊の名を呼びかけた時――遠くから何者かが此方へと近付いてくる足音が聞こえてくる――ような気がした。 「しっ……静かにせよ……誰かが来る――」 それは僕の気のせいではないらしく、側にいた世純が地面に伏せっている薊の元へと駆けよろうとした僕の身を引き寄せ、そのまま息を潜めながら草場の陰へと世純と共に移動する事となるのだった。

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