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第108話
「ひ、ひぃっ……な、なして……こんな所に人の遺体が……あるんだっちゃ……!?」
「…………」
薊が、躓いたものの正体にようやく気付いた。
鋭い刀身で背中を斜めに切られ、既に息をしていない誰かのうつ伏せの遺体だ。おそらく、この哀れなる被害者は何者に背後から襲われ――為す術なく襲われてしまったのだろう。
それくらいは、少し離れた場所からじっと息を殺してその様子を見ている僕と無論頭のよい世純にも察しがついた。
『ほんえぇ、ほぇぇっ……ふぇぇ……っ……』
――じゃりっ……ざりっ……
その薊の悲鳴混じりの問いかけと、先程までうとうとしかけて静かだった赤ん坊が再びあげる泣き声に呼応するかのように、土を一歩一歩踏みしめる足音が近付いてくる。
一歩、一歩此方へと近付いてくる何者かの足音を耳にしつつ、目を凝らしながら暗がりを草場の陰から見ていると徐々にその者の身なりが闇に浮かびあがってくる。
――顔一面を覆い尽くす般若の面。
――顔は般若面で覆われているがそのがっしりとした体格で明らかに男だと分かる。
――闇夜に完全に紛れるためか墨汁のように黒い着物姿。
――その手には所々血がこびりついた日本刀を携えている。
その異様ともいえる姿をした般若男はゆっくりと――だが、確実に怯えきって身を震わしながら腰を抜かす薊と赤ん坊に向かって真っ直ぐに向かっていくのだった。
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