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第111話
――正直、僕は意外に思った。
というのも、心を壊してしまった王花様が何らかの行動を己から起こすなど、ましてや熱心に筆を使いながら熱心に白紙に文字を書くなど――そんな事をするなどとは僕な思いもしなかったのだ。
「王花様―――何を……何をそんなに一心不乱に……書いてなさるのですか?」
「…………」
――ぴたり、
と、僕が声をかけた途端に王花様は――筆を進める手を止めた。そして、じぃっと僕の顔を虚ろな瞳で見つめた後――その可憐な唇を開きかける。
「…………」
しかし、やはり声は出ない――。
その代わりに、どことなく憂いを帯びているような表情を一瞬だけ浮かべた王花様は先程から己が書いて床に何枚も散らばっている髪へと目を下ろす。
『ゆ……~~~……~~ん……~~~』
残念ながら、その文字は一部を除いて――王花様には失礼だが、まるで蚯蚓がのたくっているような文字にしか見えず――すぐには解読出来そうにない。
「魄よ……ここは私が片付けておく。それ故、お主らは――世純殿の様子を見に行ったらどうだ?」
「は、はい……そうですね、燗喩様……では、これから王花様と共に世純殿の様子を見に行って参ります」
王花様が白紙に何を書いていたのか――。
何故、王花様はそのような行動を自ら起こしたのだろうか――。
そんな疑問を心の中に無理やり押し込めると、そのまま燗喩殿の言葉に甘えて寝所を後にし、そのまま世純殿がいるという母上の診察所へと王花様と共に向かうのだった。
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