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第112話
◆ ◆ ◆ ◆
世純は一気に己に起きた出来事からきた疲弊によるせいで、すやすやと眠っている。寝息をたてている事から熟睡しているのが伺え、彼の体の上にのし掛かっている男はにや、りと口元を不敵に歪ませながら笑った。
(ようやく……ようやく――ここまできた……あとはこの手に握られた刀を――力を込めて勢いよく横に引けば……この忌々しい世純という男はいなくなり――そして……)
と、その男は心の中で葛藤し続ける――。
世純という男は――直接的には《大いなる神の御詞》に沿った目的には関係がない。それ故に葛藤し続け――世純の喉に突き付けた刀を横に引くという簡単な事さえ未だに出来ぬのだ。
(何を――今さら躊躇う……もう、遅い――神よ、どうか――この者の魂を……御救い下さいっ……)
その男がようやく決意し、喉に突き付けていた刀を横に引き裂こうとした時――、
たたっ……
たたたっ……
再び惨劇が起きようとしているこの部屋に向かって――足音が聞こえてきた。
しかも、一人だけのものではない――と悟った男は忌々しげに顔を歪ませて小さく舌打ちをした。
一人だけであれば簡単に始末してしまえばいいが、二人以上となると話は別だ――。
(面倒事は――御免だ……世純よ、命拾いしたな……これも御神の……崇高なる心のお陰だ――)
無論、大きな声は出さないものの――未だに寝息をたてている世純に向けてそう呟きかけた男は――そのまま窓から外へと出ていき闇夜に溶けるようにその場から姿を消し去ってしまうのだった。
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