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第115話

◇ ◇ ◇ ◇ 「魄、魄――起きなさい……私の愛しい息子よ……起きるのです……」 「起きなさい……起きなさい…愛しい息子――魄……此方へ……此方に来るのです……」 激しく降り続けて窓に叩きつける雨粒と共に――ふと、母上の穏やかな声が聞こえてくる。そして、ふっ……と目を覚ました僕は傍らに眠っている王花様の事など構いもせずに布団から身を起こすと――その母の声に誘われるかのようにふら、ふらとした覚束ない足取りで部屋から出ると墨汁のように濃い暗闇と白い霧に包まれた長い廊下をひたすら歩いていく。 ――先に、先にと進めば進む程に濃くなってゆく暗闇と辺りを包み込む白い霧。 ――いや、それだけではない。先に進めば進む程に僕の鼻を嫌な匂いが刺激してくる。 (鉄臭い……) 「そこで止まりなさい……愛しい息子の魄よ――さあ、その戸を開けなさい……開けるのです……」 穏やかな口調のまま、再び聞こえてきた母の声に抗うなどという選択肢は僕の頭の中になく、言われた通りに――ぴたり、と足を止めると目の前の戸に手をかけてゆっくりと開けようとするのだった。

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