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第118話
◇ ◇ ◇ ◇
はっ、と目を覚まして勢いよく飛び起きた時には頭の天辺から足の先に至るまで全身が汗にまみれていた。
と、意識がはっきりとしていく内に――僕の寝所に漂う異様な香りの存在に気づく。先程、汗にまみれてしまう程に厭な悪夢の中に漂っていた鉄臭い香りではなく強烈な甘い香りが僕の鼻を刺激する。
(これは――先程に見た悪夢の中で僅かにだけど嗅いだ茉莉花という異国の花の香りだ……で、でも……何故――僕の寝所に――こんな香りが?というよりも、一体……どこから漂ってくるんだろうか)
王宮内で長く働いてきた僕だが、今まで寝所に茉莉花という異国の花を飾るどころか――その花の存在さえ身近に感じた事など数少ないというのに――。少なくとも、僕が日常的にその花の存在に囲まれる事など今までなかった。
しかし、今――僕の鼻を強く刺激してくるこの茉莉花という甘い香りは間違いなくこの周辺――つまり、僕の寝所から漂ってくる。
(と、とにかく……灯りをつけて確認しなくては……えっと……ち、提灯を……っ……)
と、僕は布団から立ち上がって枕元から少し離れた場所にいつも置いてある提灯に明かりをつけるために一歩踏み出そうとした。
――がっ……
すると、何かに躓いてしまい――前のめりに転びそうになってしまう。というより、耐えきらずに前のめりに倒れ込んでしまったのだが不意に違和感を覚えた。
普通であれば固い畳の上に倒れ込んでしまうのだが、その時は―ー何か柔らかいものの上に重なり合うように倒れてしまったのだ。
ーーそれが誰かの体の上だ、と気づくのに少しだけ時間がかかってしまった。
(わ、王花様の上に!?な、何という失礼な事を――って……ち、違う……王花様じゃない……これは――大人の男の人の体つきだ……じ、じゃあ……これは誰なんだ……)
僕が前のめりになり重なり合うように倒れ込んだというのに、ぴくりとも動かない相手が王花様ではないと気づくと――あまりの不安と恐怖から震える手で明かりのついた提灯を手に持って得たいの知れない相手の方へと光を向けるとその不気味な姿に僕は真っ青になって開いた口が塞がらなくなってしまうのだった。
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