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第127話

「お止め下さいっ……屍王様…いいえ、父上!!」 僕はいつの間にか縄抜けし、その後――懐から刃物を取り出し、己の胸元へと突き刺そうとしている出来うる限りの渾身の力を込めて父が手に持つ刃物を取り上げた。 ぽろ、ぽろ――と自分でも気付かない内に瞳から涙が溢れて、頬を濡らしていた。そして、目の前で困惑したような――かつ、悲しげな表情を浮かべながら父は僕の濡れた頬に手を伸ばすと、そのまま指で涙を救いあげる。 「済まない、愛する息子よ……儂が――黒子に屈していなければ……お主の母である尹が道を誤る事はなかったのだ――こんな父を……お前は許してくれるのか?」 「ち、父上……父上――もう、もう誰かが命を奪われる姿など――見たくはありませぬ……だから、自害なされようとするなど……そんな事はお止め下さい……僕はずっと――貴方を父を求め、愛しておりますっ……」 泣きじゃくりつつも慎重に言葉を選びながら――僕はずっと疎遠で会う事すら録に出来なかった己の父に対して言いたかった想いを告げる。 「いま……さら……お……そ……い」 まるで地獄の底から這い出る鬼のような――低い、低い憎しみの籠った母の声が聞こえてきたため、僕はびくっと身を震わせながら恐る恐る目線を向ける。 其処にいる母は――既に正気を失っていた。 僅かに口角をあげて上部では穏やかに見える笑みを浮かべつつ、決して慌てず部屋に置いてある立派な壺の方へと歩いていき、 ――がしゃんっ……ばり……ばりんっ…… 決して小さいとはいえないような壺を白い雪のように滑らかで美しくて細い両手で持ち上げると勢いよく床に叩きつけて壺を壊した。 そして、あっけなく割れてしまった壺の破片を優雅な手つきで拾い上げると――そのまま上部では優しいいつもの顔をしている母が先程までは人の目を楽しませる美しい芸術品だったが、今では凶器と化してしまった壺の破片を此方へと再び歩み寄ってくるのだった。

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