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第129話

「魄、貴方は……母である私とこの愚かなる世純の戯れ言の……どちらが正論だと思いますか?愛しい子……貴方の口からその言葉を聞きたいのです。魄、私は間違っていたのですか?私は――ただ、愛しい貴方を守りたかっただけ……気が触れたかのように泣きじゃくる貴方の顔など見たくなかっただけ……さあ、お答えなさいな……愛しい子よ」 「ぼ、僕は……僕は――っ……」 「――魄よ、お主の本心を告げればいいのだ……嘘偽りのないお主の本心を晒け出せばよいのだ……何を今更、迷う事があるというのか……さあ、尹の問いかけに答えよ!!」 その世純の本心からくる言葉が――狂った母の心を刺激してしまったらしい。尚も、鬼のように怒りと憎しみに支配され氷のように冷たく恐ろしい瞳で身動きすら録にとれない世純の髪の毛を乱暴に掴むと――そのまま、手に持っている壺の破片の鋭く尖った先端を真っ直ぐと僕の顔を見据えている世純の首筋に向かって降りおろそうとしてきたのだ。 「せ、世純様の――言うとおりでございます。母上、いえ……姿形は母上なれど――魂は悪しきものに捕らわれてしまった――偽りの母上。貴方のした事は――間違っておいでです。母上……貴方は――罪を償うべきでございます……何年経っても牢屋で反省すべきでございます!!」 「――そう……ですか。魄、私は貴方に口が酸っぱくなる程に伝えていた筈ですが――優し過ぎる貴方には分かっていなかったようですね……何かを得るためには……犠牲が付き物と――何度も教えていたのに。魄、どうしても私が許せないというのなら――この場で、私の胸を突き刺しなさい……さすれば、貴方が得たいというこの者らの命は救われるでしょう――さあ、この母を――これで突き刺すのです!!」 ――どん、という鈍い音と共に縄で縛られている世純の体を母は勢いよく床へと突き飛ばすと、そのまま手に持った壺の破片を今度は僕の胸元へと押し付けてくるのだった。 母の顔には――笑みも、悲しさも、憎しみも、怒りも浮かんではいない。 無表情のまま――覚悟を決めたかのような神妙そうな素振りで困惑し続ける僕へと言い放つのだった。

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