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第131話
「――尹医師……このまま両腕を上に掲げよ!!」
普段はお茶らけている素振りばかしていたその人は――大勢の警護人を引き連れながら、険しい顔つきしつつ強引に鳥かごと化した部屋へと押し入ってきた。
今までこの母が頭脳を駆使して綿密に作り上げたであろう【大いなる計画とやらの復讐劇】の壇上にあがっていなかった人物――燗喩殿の低い怒号が演者と化した僕らの耳だけでなく、びり、びりと部屋中を震わせるのだった。
「か、燗喩……な、何故……貴方がっ……この私の復讐劇の壇上にあがる必要などない貴方が――私が好意で見逃してやった貴方が……何故に今この場で私の計画を邪魔するのですか!?ま、まさか……まさか……世純――貴様が……っ……!?」
「――だから、遅すぎると言ったのだ。尹、貴様が察している通り……我が前々から燗喩の奴に警告しておいたのだ……尹、貴様が危険だと……いずれ、大きな事件を再び起こすに違いないとそう密告しておいたのだ――無論、すぐに捕らえるでないと忠告した上でな。つまり、我らは――今日、この時を……心待ちにしていたのだ」
「…………っ……!!?」
その時――狂った母の顔が世純の言葉を聞いて動揺したのか、初めて余裕なさげに歪められる。母の気持ちも分からないわけではなかった。まさか、今まで犬猿の仲だった燗喩殿と世純が――密かに通じているとは予想していなかったのだろう。
爪が甘いと言われれば、そうなのかもしれないが――もしも、僕が母の立場であっても二人が密かに結託しているとは――おそらく予想出来てはいなかったと思う。
「……警護人よ、王宮に害なす者どもを捕らえ――捕らわれた者達を救え……特に屍王様はご高齢ゆえ丁重にお救いせよ」
「…………畏まりました、燗喩殿!!」
こうして狂った母である尹の【大いなる計画という名の復讐劇】は幕を閉じた――かのように思われた。
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