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第132話

◇ ◇ ◇ ◇ 「――燗喩……今まで貴様に対して無礼を働き、挙げ句の果てに――嫉妬という下らぬ感情に振り回され謂われなき罪を押し付けた我の言葉を信じるとは感謝してもしきれぬ。その――今まで済まなかった」 「いや……お主は――この王宮の危機がこれ以上広まるのを結果的に阻止したのだ……それは称賛に値する。此方こそ――感謝しなければならない」 今まで犬猿の仲だと噂されていた燗喩殿と世純が――ぎこちないながらも、互いに手を取り和解し合う光景を見て、僕は心の底から安堵する。 すると、つい――余りの眠気から目を瞑ってしまう。今までの疲れが一気に出てきたのかもしれないが、その時……母が警護人達に連行されていく時の辛い光景が瞼の裏に浮かびあがってくる。 既に母上と翻儒は警護人に牢へと連行されようと身柄を拘束され、捕らわれていた命を奪われなかった守子達も看病のため警護人の手によって外に連れだされていた。部屋の中には連行されようとしている母と翻儒以外は、僕と燗喩殿、薊と赤ん坊、世純とその脇にくっついている王花様しかいなくなっていた。 ――母は警護人に連行される前、僕とすれ違いざまにこう囁きかけてきた。 【――きっと後悔するでしょう……既に種は撒きました……花開く時、貴方は後悔する……必ず……後悔する事になる――母の言葉を今のうちに有り難く聞きなさい……愛しい子よ――】 その言葉を母の口から聞いた瞬間、訳が分からないながらも――何故かぞくり、と鳥肌がたってしまい慌てて母の顔を見ようとしたが――既に時遅く母は幼なじみだった翻儒と共に僕らの前から姿を消して行ってしまっていた。 はっ、と目を覚ました僕は頭を横に振り――何とか眠気を吹き飛ばそうとする。 そして、母の意味深な言葉の事とは別に気になった事がある僕は少しだけ遠慮がちに世純の顔を一瞥した。 「――何だ、お主……何か我に聞きたい事でもあるのか?」 「いえ、その……世純様は――何故、母が危険だと分かっていたのですか?」 「――何だ、その事か……お主、あれほどに王花様が必死でお主に伝えようとしていたのに――やはり、気付いていなかったのか。びは……いや、黒子が無惨な死を遂げた時、王花様が部屋にいたのを覚えているな?その時、我は王花様が白紙に何か言葉のようなものが書かれている事に気付いた。そこに、ゆん――きけんという言葉が繰り返し埋め尽くされる程に書かれていたのだ」 と、そこまで聞いて――はっ、と思い出した。 いつだったか、王花様が白紙に筆で何かを一心不乱に書いていたのを――唐突に思い出した僕はまるで雷に撃たれたかの如く途徹もない衝撃を受けるのだった。 『――ん――けん――き――け――ん――ゆん――きけん――』 あれは――、 あの王花様の意味不明と捉える事しか出来なかった奇怪な行動は――、 全ては――僕を守ろうとしてくれたための真実の愛からくる伝言だったのだ。

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