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第134話
◇ ◇ ◇ ◇
どくん、どくん……と心臓が跳ねるように脈打っているのが分かる。今にも口から飛び出てしまいそうな程に大きく――しかし、均一のリズムで脈打っているのだ。
こんなにも緊張してしまっている理由は――分かっている。
僕が世界で一番愛している燗喩殿と二人きりになったため――。
そして、格子状の窓枠の隙間から墨汁をぶちまけたような真っ暗な夜空に浮かぶ満月を目にしたため――。
墨汁をぶちまけたようなな真っ暗な夜空にぽっかりと浮かぶ満月は――途徹もない程の存在感を放っている。
「か、燗喩殿――今宵は……」
「――待て、それ以上は……お主が言うでない。私の面目がたたぬゆえな……」
と、一気に――部屋中に沈黙が流れる。
余りの沈黙からくる気まずさと、何とも言い様のないむず痒さに耐えきれなかった僕はちらり、と対面しあっている燗喩殿の顔を真っ直ぐに見つめ――、
「「今宵は満月が綺麗ですね……」」
僕と燗喩殿の声が――想いがほぼ同時に重なり合い、自然と互いに身を引き寄せると、そのまま唇を重ね合うのだった。
『今宵は月が綺麗ですね』
これは赤い糸によって引き寄せられたαとΩが心身共に重なり合い、【運命の番】の相手として認め合い永遠に結ばれてもよいと判断した時に告げ合う言葉――。
異国でいう所の――【プロポーズ】とやらに値する言葉だ、と幼い頃に母が切なそうに言ったのを思い出したが、今はただ――世界で一番愛する燗喩殿の身に任せる僕なのだった。
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