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第141話
◇ ◇ ◇ ◇
「魄……魄よ、起きよ……これから契婚の儀式を執り行う為に祝寿殿へと参るぞ――先程の御身契りで体が辛いだろう……?このまま、私がそちを抱き抱えてゆくから安心するがよい」
「燗喩殿――契婚の儀式を終えれば、ようやく……僕と貴方様は一心同体となれるのですね」
あれから、どのくらいの時が過ぎたのだろうか――。
格子状の窓枠の外には未だにぽっかりと満月が浮かんで煌々と照らしているため――夜には違いないだろうが、正確な時刻は分からない。御身契りを終えた事からくる気だるさに耐えつつも――僕は布団に横たわっていた身をゆっくりと起こした。
正確な時刻は分からないとはいったものの、一般的に契婚の儀式を執り行うのは神無時(夜の10時)以降と決まっているため、大体そのくらいの時刻なのだろうと察しはついていた。
(ああ……そうか、もうそのような時刻になったのか――正直、あまりの嬉しさから……御身契りの最中は時刻の事など考えてもいなかったな)
僕は――そんな事を、ぼんやりと頭の中で思いながら燗喩殿の好意に甘えて抱きかかえられながら念願の運命の番という絆で結ばれた夫婦になるべく必要な契婚の儀式を執り行う祝寿殿へと共に向かうのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「これは、これは……契婚の儀式を執り行う御魂をお持ちの運命の番となった方々ですな――ようこそ祝寿殿にお越し下さいました……さあ、此方へ――おい、おい……この方々を早く祝寿の儀式の間へ案内せよ……っ……この木偶の童子め!!」
祝寿殿に一歩入るや否や――術師用の袈裟を着ている坊主頭の、でっぷりと太った男が僕らを出迎えてくれた。その坊主頭の隣には――恐らく僕と其れほど年が変わらないであろう童子がいるが、大きな帽子を目深に被っているため顔までは分からない。
「…………」
その坊主頭の太った男からきつい口調で怒鳴られた童子は無言で僕らへお辞儀すると、そのままとある場所を指差した。どうやら、此方へ付いて来てほしい――と言っているようで童子が無言な事に対して訝しげに思いつつも、その場でずっと突っ立っている訳にはいかないため――大人しく童子の後へと着いていった。
坊主頭の太った男はその場に残り、儀式の間とやらには着いてくる気配すらない。どうやら、一連の契婚の儀式を執り行うのは坊主頭の太った男ではなく、彼から木偶の童子と蔑まれるように呼ばれた彼らしく――尚更、言い様のない不安に怯えつつも祝寿殿の入り口から少しばかり歩いた場所にある儀式の間へ一歩足を踏み入れるのだった。
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