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第142話
儀式の間と呼ばれていた部屋に一歩踏み入った途端に僕と燗喩殿の目に飛び込んできたのは――部屋中を覆い尽くす程に充満している白い煙だった。ぱっと見だけでは分からないものの、よくよく目を凝らしてみると部屋の中央には大釜があり、ぐつぐつと何かが煮えたぎっているような音が聞こえる。
もく、もくとたてている煙は――その大釜の中から漂っている。
不意に――何となく見られているような気がして、上の天井へと目をやった。すると、そこには吊り下げられた沢山の白い髑髏の頭の部分だけが僕らの方に向いており、此方へ注目している。
生気のない黒い穴でしかない沢山の髑髏目が――物言わずにじぃっと此方へ注目してくるこの奇怪な事態を目の当たりにし、既に燗喩殿の体から降りていた僕は――ふらり、と目眩に襲われて倒れそうになってしまう。
「………っ……!?」
と、その時――床に倒れてしまう寸前で先程太った坊主頭の男から【木偶の童子】と呼ばれていた童子が床へと倒れてしまいそうに僕の体を抱えて阻止してくれた。
「あ、ありがとう……ござい……ます」
「…………」
相も変わらず無言な上に、部屋に煙が充満している事と――帽子を目深に被っているせいで顔すら見えない童子に対して礼を言った僕。すると、少ししてから童子は無言でお辞儀をしてくれる。
そして、すっ――とある壁の方へと指差してくれた。どことなく不機嫌そうな顔つきになって僕の体を引き寄せてきた燗喩殿と共に近づいてみると、そこには契婚の儀式の手順が書いてある張り紙がしてある事に気付いたため確認してみる事にしてみるのだった。
しかし、ある違和感覚えた僕は――再び上の天井へと目線を移した。其処には先程、僕がこの目で見た筈の天井にぶら下がる頭だけの髑髏など見当たらず――代わりといわんばかりに只の白い提灯が大釜から漂っている白煙に同化するかのようにゆら、ゆらと揺れているだけだ。
もや、もやとした気分を抱きつつと――僕にとっては燗喩殿と契婚の儀式を執り行い、目出たく夫婦となる事が最優先な目的となるため張り紙にじぃっと目を凝らしていくのだった。
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