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第143話
【運命の番となり御魂を共にする者達よ――。契婚の儀式を執り行う手順について、しかと刮目し……その目に刻み付けよ――。これは黄泉におわす禍厄天呪様からの有り難き忠告である】
僕と燗喩殿が目にした張り紙に第一に書かれていたのは、そのような語り口の筆で書かれた文字だった。そして、その後に書かれているのが肝心の儀式の手順だと気付くと――燗喩殿と互いに目を合わせてから何故か少し緊張しつつ張り紙の達筆な文字を読み続ける。
【まず――この祝寿殿の中央にある大釜の前へゆき、そなたらの祈りを捧げよ。その際、床に両手と両膝をつき犬が如き格好で祈りを捧げ)れば懐の広い禍厄天呪様は満足せし――。次にそなたらが纏っている悪しき布を全て脱ぎ――天衣に着替えた後――二人で共に大釜の中へと入れ……その前に大釜の前にある魂身浄薬で身を清めるのを忘れるな】
「えっ……こ、この――大釜に入るのですか?」
「木偶の童子とやら……ぐつ、ぐつと煮えたぎっているが――火傷はしないのか?」
「…………」
木偶の童子とやらは、相も変わらず無言のままで、そんな些細な事は平気だといわんばかりに、こくりと静かに頷いた。もしかしたら、この木偶の童子とやらは、元々口がきけないのかもしれない。
と、その時――今まで大人しそうに僕らの後ろから付いてきただけの木偶の童子とやらが思いも寄らない行動に出た。何の躊躇もなく――ゆっくりと何かが煮えたぎる大釜の方に近寄っていき――そのまま中へと入ったのだ。
(……だ、大丈夫なのだろうか――あんなにも何かが煮えたぎっている音も聞こえるし……煙まで出ているのが見えるというのに……)
と、そんな僕らの不安を余所に暫くしてから木偶の童子とやらは平気そうに大釜の中から出てきた。慌てて彼に近寄り、様子を確認してみたが――火傷どころか小さな傷一つもなく――入る前と全く同じ状態だったため僕はほっと胸を撫で下ろして安堵する。
――こうして、木偶の童子が体を張って大釜の中に入っても無事だという事を証明してくれたお陰で安心しきった僕と燗喩殿は契婚の儀式を執り行うための手順を始めるために、大釜の前で四つん這いとなり祈りを捧げてから天衣と呼ばれる白くて薄いひらひらの生地の衣服を纏ってから魂身浄薬で体を清めるという行為に移るため互いに手を繋ぎながら大釜の脇へと足を進めて行くのだった。
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