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第146話
◇ ◇ ◇ ◇
「目覚めよ……魄よ――遂に私達は目出たく夫婦となれたのだ……おい、おい――魄よ……そちは、よもや具合でも悪いのではないか?」
――ぺち、ぺち……
と、頬を叩かれる感触を感じた僕はぼーっと霞がかっているかのように――もやもやとした頭の中を何とか覚醒させるために未だに半ば夢見心地のまま半開きとなっている目で辺りをきょろ、きょろと見渡してみる。
すぐ側には、この祝寿殿に着た時に身につけていた宇治抹茶色の着物へと既に着替えている燗喩殿がいて、未だに覚醒しきったとはいえない程に呆然としている半ば夢見心地のままの僕の顔を心配そうに覗き込んでくる様子が見える。
「んん……儀式は――もう終わっていたのですか?」
「ああ……良かった。ようやく目を覚ましたか――そちは儀式が終わった途端に気を失ったのだ……気分は如何だ?」
「何だか……言い様のない悪夢を――あ、いえ……何でもございません……旦那様……」
儀式が既に終わっていると聞いて、何ともいえないような不安と僅かな違和感を抱いたものの――愛する燗喩殿から既に夫婦となった、と告げられて舞い上がってしまうくらいの嬉しさを感じた僕は目の前にいる夫となった伴侶の燗喩殿へと答えるのだった。
その後、契婚の儀式を終えた僕らは祝寿殿から出て王宮へ戻るために扉へと向かおうとした。すると、先程儀式を執り行ってくれた木偶の童子と呼ばれた男の子から何かを手渡されたため、これは何なのだろうと首をひねりつつも彼へと訝しげな目線を向けてしまう。
「え、えっと……失礼ながら――これは何なのでしょうか――それに、頂いてしまっても宜しいのでしょうか?」
「…………」
やはり、木偶の童子とやらは何も答えない――。
木偶の童子から渡された物は――小さくて丸い物で色は黒い。そして、彼は言葉すら発しないもののその黒くて小さな丸い物を指差してそのまま口元へと指を持っていった。
―――これを、飲め……と言っているのだろうか。
「えーっ……失礼ながら私から説明させて頂きます。木偶の童子は――これは体調を良くする丸薬なので飲むべきだと言っています。彼は元々、口を聞けぬ存在でして……お見苦しい所を見せてしまい、申し訳ございませぬ――さあ、この水で――お飲みくださいませ……魄様」
不意に、どこからか再び現れた坊主頭の太った男が訳がわからないまま困惑している僕に説明してくれた。やはり、木偶の童子とやらは口が聞けないらしい。そして、彼らの好意を無駄にしてはいけないと思った僕ら水を受けとるとその黒い丸薬らしきものを勢いよく飲み込むのだった。
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