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第149話
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僕の運命を更に狂わせる事件が起きたのは――牢屋で廃人同様の姿と化した母と面会してから一月ばかりの時が経っての事だった。
その日は――珍しく雨がしと、しとと降っていて昼間だというのに薄暗くじめじめとした陰気な日だったのだ。
「……魄様、魄様――突然寝所に訪れてしまい、申し訳ありません……すぐに――中庭へいらして下さいませ!!」
唐突に寝所へと訪れ、動揺している素振りを見せている警護人(因みに手紙を渡してくれた者)の声で目を覚ました僕は何事か、と思いつつも急いで身を起こしてから共に慌てて中庭へと向かったのだった。
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中庭へと到着し――まず僕の目に飛び込んできたのは、たとえ雨粒に打たれていようとも凛と其処に聳え立つ立派な桜の木――。
次に否応なしに飛び込んできたのは――その立派な桜の木の枝にぶら下がる縄の下で、ぶらり、ぶらりと力無く息絶えている美しかった筈の母と、かつて威厳ある王だった筈の父の無惨な最後の姿だった。
警護人が側にいてくれて良かった――と今にして思う。
もしも狂ったように泣き叫る僕を警護人である彼が必死で身を張って制止してていなければ――今の僕は存在すらしていなかったに違いない。確実に、僕は――母と父の後を追って己も自ら命を絶っていたに違いなかったと年月が経った今でも自覚しているのだ。
一度に母と父を失った日のその夜は――悪夢に魘されて何度も飛び起きたのを――かなりの年月が過ぎた今でもよく覚えている。
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