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朝目が覚める前に ① 弟side

あれは俺がまだ小学生のときだった。 小学6年の夏休み。 セミがうるさくて、熱中症にでもなるんじゃねーかってくらい暑かったあの日。 両親は共働きで家にいなくて、俺は朝から親友のカツミんちに行ってた。 兄貴には夕方くらいに帰ると言って。 その予定が変わったのは昼ごろ急にカツミがおばさんの急用で一緒にでかけなきゃならなくなったからだった。 しかなく俺は家に帰ってきて―――そして、見た。 『んっあ、ん!!! たっちゃん、キモチイイっ、そこもっとしてっ!!』 普段よりもえらく高い兄貴の声とベッドの軋む音。 家の中はすっげぇ静かで、だからその声は響きまくってて。 誰もいないからと油断してたのか、兄貴の部屋のドアは薄く開いてて、俺はつい覗いてしまった。 『耀(ヨウ)、お前ん中、ドッロドロだぞ? 本当に初めてか?」 ベッドの上で兄貴の脚を広げてその間で腰を激しく打ち付けてるのは従兄のタツ兄。 『はじめ……てっ……ひゃっあ、やぁっ』 『初めてのくせにこんなに感じまくって……淫乱だなッ』 薄く笑ったタツ兄が一層強く腰を動かす。 肌と肌のぶつかる音が響いて、兄貴の嬌声もひっきりなしに響く。 それが―――セックスだということはわかった。 もちろん経験はなかったけど、知識だけはあったし、友達の兄貴が高校生だったりするといかがわしい雑誌とかたまにこっそり見せてもらったりしてた。 だから知識としてはあった。 けど、それは男女のもので、男同士じゃない。 兄貴は男だし、タツ兄は男だ。 それにタツ兄には彼女がいたはずだ。 なのに、なんで。 男同士でセックスなんて出来るの。 小六の俺はただ呆然とその情事を見続けていた。 四つん這いにされた兄貴の後孔にタツ兄の赤黒く太い肉棒が何度も激しく挿送されてる。 ありえないと思うのに、卑猥で、目が離せない。 『ひぃッ、たっ……ちゃ、イク、イクっ!!』 『イケッ! ド淫乱ッ』 気さくで優しいタツ兄と、ごくふつーの兄貴が、身体を絡み合わせてる。 それは俺にとっては衝撃すぎて―――。 しばらくして兄貴の中で達したらしいタツ兄が兄貴から離れるのを見て、慌ててリビングに向かった。 だけど途中で方向を変えて風呂場に。 俺は、兄貴とタツ兄のセックスを見て―――射精してしまっていた。 そしてあれから4年。 「行ってきまーす」 スキップでもしそうな勢いで夜7時兄貴は外出していった。 なんでも今日はタツ兄に飯を奢ってもらうらしい。 両親にとっては面倒見がいい従兄とでも思ってるんだろうが、実際はわかったもんじゃねぇ。 つい最近タツ兄が女と別れたって話は聞いていた。 ということは―――今日は飯を奢ってもらうかわりに兄貴がタツ兄に食われるってことだ。 もともとノンケのタツ兄は女好きで別に男が好きなわけじゃない。 女が切れたときに性欲処理なのか気分転換なのか兄貴とセックスする。 それに気づいたのは中学に入ってからだった。 でも兄貴は確実にゲイだ。 タツ兄が初体験の相手だったけど二人が付き合っているという感じはなかったし、すぐにタツ兄にはカノジョができて、それで―――。 「俺も出掛けてくる」 「またー? かっちゃんのおかあさんによろしく言っておいてよねー?」 「ああ」 カツミんちに行くと言って家を出ても実際行くわけじゃねえ。 夜の道を歩きながら中学時代を思い出す。 タツ兄に相手にされなくなった兄貴はどこでどうモーションかけて引きこんでくるのか同級生やら先輩やら男たちと関係を持ちまくっていた。 ……平凡のくせに。 俺は中学時代それで散々悩まされた。 小学校の頃ぼろい借家だったのが中学になってから中古マンションを買ったんだけど、俺と兄貴の部屋はもとはひとつだったのをリフォームして二部屋にしたもので。 そのせいか、それともたんに管理人がケチだったのか壁がめちゃくちゃ薄い。 でも兄貴はそれに気づいてないみたいで男連れ込んでヤるときも声に遠慮がない。 あんあんあんあん喘ぎまくる兄貴の声を聞かされる俺の身にもなってほしい。 気づけば俺は家を開けることが多くなっていた。 兄貴と顔を合わせたくなくて。 「なー、ミカが暇ならカラオケでもいかねーかって。どうする?」 いくつだか知らねぇ女からの連絡に、どうでもいいとカツミに返す。 じゃー行くかぁ、とカツミはミカだかなんだかに連絡を取っていた。 そして他のダチも集まって女たちも合流してカラオケに行った。 つまらねぇ時間をどうでもいい女を傍において過ごす。 香水の匂いがキツイ、露出しまくったミカだかが俺の腕を胸に擦りつけてくる。 「ねーねー、あとで抜けようよー」 ウザったいけど、胸のでかさは合格。 「あとでな」 面倒臭いが、憂さ晴らしにはちょうどいい。 それから1時間ほどして俺はミカとカラオケを出てホテル街へと向かった。 「たっちゃーんー」 繁華街から、妖しげなネオンが光るホテル街に差し掛かったところで聞き覚えのある声が聞こえてきた。 視線を向けたら平凡バカ兄貴がタツ兄にべたべた抱きついてる。 夜でもわかる兄貴が泥酔しているらしいことは。 顔は真っ赤だし、舌っ足らずになってるし、脱力しきった様子でタツ兄に抱きついてんのかしがみついてんのか。 「もーあるけないー」 うざい。 甘えた声でタツ兄の背中に手を回している兄貴。 「しょーがねぇなあ」 そんな兄貴にノンケのくせにニヤついているタツ兄。 「尚くん、どうしたのー?」 存在自体忘れてたミカが俺の腕を引っ張ってきて顔を覗き込む。 冷たく一瞥してその身体を押しのけた。 「ちょ、なによ?!」 「気分が変わった。じゃあな」 「はぁ?」 喚きだすミカを無視して兄貴たちのほうに向かう。 そして――― 「なにしてんの、こんなところで」 そう、声をかけた。 ―――別に平凡淫乱のゲイ兄貴なんかどうだっていい。 でも……みすみすこれから食われるっていうのをまた黙って見逃す? 遠く、夜空に満月が浮かんでいるのが見えた。 気でも触れたか、狼にでもなるか? 泥酔しきっているせいで俺に気づかない兄貴とは逆にギョッとしたように目を見開き狼狽するタツ兄に笑いかける。 「たっちゃん、兄貴酔っぱらってるみたいだし、迷惑だろうから俺家に連れて帰るわ。タクシー代一万、ちょーだい」 軽い口調で、だけど拒否はできないように鋭く睨みつけて。 従兄から兄貴を腕の中に引き込んだ。 「んー……」 しがみつく相手が変わったのに気づく様子もない兄貴の手が俺の首に巻きついてくる。 耳元で響く掠れた熱っぽい声、呼吸。 俺はノンケ。 俺が初めてセックスを見たのは兄貴とタツ兄のだけど。 だからって俺が男に目覚めたとか、そういうのはまったくない。 なのに―――。 「……ン……、この……におい……なおー…?」 くんくんと匂いを嗅いで首筋に顔をうずめる兄貴に下半身が熱く滾って、気づけばラブホテルの部屋の中に―――いた。

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