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第22話 スペア 2-4

「え?」  その神経の図太さと同様、面の皮も相当なものだろう。いかにもお人好しがまんまと騙されるタイプの女だ。騙される奴も奴だが。 「……勘違いすんなよ。こいつが優しいのはお前だけじゃなくて万人だからな。それとこいつは――瑛冶は俺のもんだから女にやる予定はねぇよ」  人のものだと分かっていながら、男の周りをうろつく女の神経が全く分からない。 「え、ちょっ……」  戸惑った声を上げ息を飲んだ電話の向こう側を鼻で笑い、俺は言うだけ言って通話を切り、傍で立ち尽くしていた三木に携帯電話を放り投げた。 「言い訳の電話すんならいまのうちじゃねぇの?」  しかし手が伸ばされることなく携帯電話はカーペットの上に転がった。 「俺が風呂上がるまでにその匂いなんとするか、出ていくかしろよ」  いつまでも身動き一つしない三木の様子に、俺は舌打ちしてリビングを横切り風呂場に足を向けた。 「広海先輩」 「あ?」  脱衣所の扉を開けようとした瞬間、急に腕を掴まれ後ろへ身体ごと引き寄せられた。そして状況を把握する前に息すら絡め取るよう口づけられる。 「ンっ……なにす、んんっ」  いきなり壁に押し付けられ文句を発する間もない。舌を吸われ口内を掻き回されれば、酸素を求める脳みそがぼんやりしてくる。しかし勝手にボタンを外し始めた手にふと我に返り、俺は咄嗟に三木の脛を蹴り飛ばした。 「いっ」 「いてぇじゃねぇよ。なに盛ってんだ、臭いって言ってんだろうが」  ヨロヨロと後退し蹲った三木にため息を吐き出せば、奴は半分涙目になりながらも顔を持ち上げた。

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