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第23話 スペア 3-1

「広海先輩、言って」 「は?」 「俺のこと好き?」  眉をひそめた俺に三木は小さく首を傾げながら、人の心の内を覗くかのように、ゆっくりと目を細めた。 「意味わかんねぇ」  じっとこちらを見る視線に耐え切れずふっと目を逸らすが、立ち上がった三木が目の前に立ちはだかり、逃げ場を断つ。居心地悪く身を捩れば、さらに背後の壁に両手を付かれ身の置き場が狭くなった。 「俺は先輩が好き。広海先輩は俺のこと好き? ねぇ言って、ヤキモチ妬くくらい俺のことが好きだって」 「……」 「答えるまでやめないよ」  目も合わさず口を閉ざす俺に三木は珍しく小さな舌打ちをした。それに驚いて思わず顔を上げると、身体を押さえ込まれ顎を掴まれた。慌てて顔を逸らすが、再び三木の唇が俺のそれに食らいつく。 「ざけんな、やめろ馬鹿! 俺は嫌だって言ってんだよ。その匂いなんとかしろよ」  渾身の力で三木の身体を押し飛ばして、俺は離れた隙に目の前にある顔を思いきり張り付けた。けれどそれに怯むことなく、三木は再び俺の腕を押さえ、口づけてくる。 「離せっ」  鼻先を掠める匂いに苛々する。どうしようもないくらい胸のムカつきを覚えて気分が悪い。 「え? ……せ、先輩? あ、ごめんっ」  無理矢理に顔を押し退けて睨みつければ、三木は途端に肩を跳ね上げて飛びのいた。そしてうろたえたような顔で目を見開き、まるで壊れ物を扱うみたいに俺の頬に触れる。

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