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第30話 パフューム 1-5

 暗がりでもひと目でわかるほどのその輝きっぷりに、俺は一気に有頂天になってしまう。コートの上からでもわかるすらりとした身体つき、きつい印象を与えがちだが、淀みの全くない綺麗な瞳と、色気のある柔らかそうな唇。少し長めの艶やかな黒髪が風に流れる様は、思わずうっとりしてしまいそうになる。 「広海先輩っ」  ――ああ、やっぱりこの人じゃなくちゃ俺は駄目だ。  コートのポケットに両手を突っ込んで、こちらを睨んでいるその人めがけて、俺は無意識に走り出していた。両腕を広げて抱きつけば「うざい」と言い放たれたが、どことなくひんやりとした身体に気づき、腕にすっぽりと収まる彼を強く抱きしめた。 「身体冷えてますよ?」 「お前がおせぇんだろうが。早番だったんだろ、なにモタモタしてたんだよ」 「待っててくれたとか、なにそれ、幸せ過ぎます」  正直、先ほどのやり取りでモヤモヤしていたけれど、それが一瞬で吹っ飛んだ気がした。初だ、これは初めての出来事だ。いますぐに祝杯上げたいくらいに、嬉し過ぎて昇天しそう。  仕事終わってまっすぐここに来てくれたんだろうか。そう思うと顔のにやにやが治まらない。 「俺、明日休みになったんだよ。お前も休みだろ。飲みに行くぞ」 「それはっ、まさに初デートっ」  思いがけない言葉につい声が大きくなってしまった。

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