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第43話 パフューム 3-4

 それでも腕の中にいる小さな彼は、身じろぎもせずにじっと俺の肩に頬を寄せていた。 「帰ろう、もっとちゃんと先輩のこと抱きしめたい」  一分一秒でも早く、彼に触れたい。  大通りで拾ったタクシーがマンションに着くなり、早く早くと急く俺に手を引かれ、広海先輩は肩をすくめて苦笑いを浮かべている。若干、呆れられているのは感じるけれど、いまはもうそれどころじゃなくて、焦りなのかなんなのかわからないが、繋いでいる自分の手は熱くて汗ばんでいた。 「待て」  しかしようやく玄関に入ったところで、おあずけを食らわされた。せめてキスくらいと思ったけれど、じっとこちらを見つめて制されると、思わず息まで止まってしまう。 「ここで、玄関でがっつくな」  いますぐにでも押し倒してしまいそうな気持ちの勢いは、どうやらすでに見透かされていたようだ。しかしそれでも、この沸き上がる衝動の行き場を無理に制されると、辛くて仕方がない。 「うーっ」 「唸るなバカ犬、俺がベッド以外でヤルのが嫌だっての忘れたか」 「うぅーっ、でも、このまま待ては嫌です、早く」  ほんのちょっと潔癖症に近い広海先輩は、意外と色んなこだわりがある。  ジタバタしたい衝動に駆られてまた低く唸れば、大げさなほど深いため息をつかれた。けれどふいに伸びてきたひんやりとした手が俺の頬を掴む。そしてその手に引き寄せられるまま身を屈めると、ずっと触れたかった唇がそっと自分の唇に重なった。

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