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第44話 パフューム 3-5

 柔らかなその感触に、深く押し入りたい気持ちになるが、待てを言い渡されたままなのでそれも出来ず、俺はぎゅっと堪えるように目をつむった。  ゆっくりと食むように啄まれ、舌先で時折唇を撫でられると、わざと焦らされていることがわかっているのに、どうしても身体が熱くなってくる。 「もう無理……」  触れる肌の冷たさを払拭する、割り入ってきた舌の熱さに頭がくらりとした。そして絡みついてくるその熱に、ぷつりとなにかが切れたような気がした。  もうおあずけはしていられない、よしの合図なんて待っていられない――慌ただしく靴を脱ぐのと同時か、唇を離して目の前の身体を抱き上げると、俺は無我夢中で自分の部屋に足を進めた。 「興奮し過ぎ」  抱き上げた身体をベッドに沈めて、その上に跨がると、目を細めて鼻先で笑われた。でもその仕草がやけに色っぽく見えて、ますます俺は、肩で息をするほどに気持ちを昂ぶらせてしまう。しかし性急にコートのボタンを外して、シャツの襟首から微かに見えた白い首筋に顔を埋めようとしたところで、なけなしの理性が働いた。 「あの俺、仕事終わりで」 「ここに来てそれか」  けれど言いかけた俺の言葉は、ゆるりと持ち上がった手のひらに額を叩かれ喉奥に留まった。 「だって広海先輩、外の匂い好きじゃないし」 「いまここで風呂とか言ったらやる気なくすからな」

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