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第33話 パフューム 2-2

 しかし引っ越しをしてからマンションは広海先輩の職場の近くになった。ひと駅先だが徒歩や自転車でも行ける距離だ。それなのに家で待たずに電車にまで乗って、わざわざ俺の職場まで来たのはどうしてだろう。マンションの周りにも何軒か飲食店はあったような気はする。 「先輩はなにが食べたいです?」 「なんでもいい。お前が美味いと思うもの」 「俺?」  想定外の答えにうろたえれば、前を歩いていた広海先輩が立ち止まりこちらを見上げる。 「お前の飯に慣れると外で食ってもあんまり美味くねぇんだよ。だからお前が食って美味いもんならなんでもいい」  ぼそりと独り言のような声で呟かれた言葉に、思わず顔がだらしなく緩んでしまった。それは、どこで食事をしても俺の作るご飯が一番美味しいと言われたようなものだ。決して餌付けたつもりはないが、胃袋を掴むとはこのことかと、にやにやしてしまう。  思えば広海先輩は、一緒に暮らすようになってからあまり外食をして帰ってくることがなくなった。どんなに遅くとも、帰ってきてからなにかしら俺の作ったものを口にする。 「広海先輩っ、愛おし過ぎる」 「ちょ、こら待て、抱きつくなバカ犬」  なに気ないこと過ぎて気づかなかったけれど、そんな意味合いが含まれていたなんて、幸せ過ぎて、広海先輩が愛し過ぎて、俺の尻尾は振り切れんばかりだ。  人の行き交う道の真ん中で勢い任せに抱きついたら、迷惑そうな鬱陶しそうな顔をされたが、無理やりき剥がされることはなかった。

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