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第19話

佐久間のニヤけた顔が、すっと表情を変えるのを見てオレはビクッと身体を震わせた。 この男は、面白くないことや思い通りに行かないとキレる事が多々あった。 当時はオレが悪いからと納得していた筈なのに今思い返すとただのガキ見たいな事だったのかも知れない。 オレは佐久間を思って取った行動でそれが当たり前だと思ってたけど佐久間は自分の為に、怒っていたのではなかろうか。 「りお、お前は独りじゃ生きられねぇだろ?オレが数日旅行に出て帰らない日は、必ず1度は連絡して来たよな。」 今の奥さんと行った旅行...オレには家族旅行と言って、姉がうるさいから携帯はあまり触れないと...深夜に電話して来てたよな。 「今は足りてるからな...」 「は!?もう新しい男出来たのかよ!」 お前にだけはそのセリフ言われたくねぇわ! 「佐久間さん、オレはもう、あんたに捨てられて、あんたは家庭を持ったんだ。 これ以上オレに執着する意味が解んねぇし、オレはあんたとはもう寝ない」 今でも鮮明に思い出せる。 あんなに愛してくれた男からのあっさりとした一言... 〝おまえ男だろ〟 男を抱いてる時点で理解しろ、好きだと何度も伝えたじゃないか! オレの気持ちを、散々利用したのは...お前だ。 そんなやり取りをしてたら、佐久間に腕を引かれて抱き締められた。 離れようともがいても離してはくれず、バタバタと暴れていた時に、急に佐久間の身体が離れて行って、驚いたオレは後ろによろけながら佐久間の離れて行く姿をスローモーションの様にみていた。 そして、背中にトン...と当たった厚い胸板。いつもオレを抱き締めて寝るクロのだと理解するより先に身体が安心して身を委ねた。 「クロ?」 オレより背の高いクロ。 オレの頭は精々クロの、喉元にしか届かない。 「りおに触れるなっ」 低く地を這う声に、オレの体は重低音を響かせた様にビリビリと痺れを感じ、獣の咆哮かの様な迫力で低く響く声に腰が抜けそうだった。 「なっ、なんだお前っ」 クロに気押しされたのか数歩下がって戦きながらも、裏返った声でクロに問う。 「お前はりおに触れるな!その資格を自ら手放したお前には、絶対触らせねぇ」 胸が...熱くなった。 凄く、嬉しかった。 オレはこうやって、クロに守られてると。 それだけで嬉しかった。

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