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第53話
オレは放心状態で高くもない、家の天井を見て、それからゆっくりとクロを見る。
シンと、静まった室内でギシリと、クロの動くタイミングでベットが揺れ、オレの方へ身体を向けた。
「りお、野球やってたろ?」
オレの方を見て、少し伸びたオレの前髪をクロがずらしながら聞く。
「あ」
そう、オレは小学生の頃野球をやっていたんだ。
ピッチャーで、打撃は良くなかったけど小学生の時は、エースだった。
高校に入る前に、甲子園に行きたいと願ってた思いは今だって思い出せる。
「なんで...?」
でも、やっていたのは中学迄で、大きな大会に出たのも数回、成績を残した投手ではなかった。
「リトルにいただろ、その頃から俺はりおを知ってる」
そして、ハッと思い至ったのは、オレが中学の時にいた、小学生キャッチャー。
「鏑木 ...覚えてねぇか?りおはカブって呼んでた」
オレの中に思い起こされるのは...小さい身体で一生懸命ボールを捕ってくれた、カブ。
当時、野球するからと親に髪を刈られて、チクチク剣山みたいな頭だった。
「っ!?は!?な、なんで!?ハゲカブ!?」
「ひでぇ...が、それだ。」
そうか、それか!
いやいや待て待て!
「カブって、甲子園いったろ!?」
噂でオレがリトルをやめてから聞いた話だ...
あの時代、不作でなかなかピッチャーが居なくてオレと2個下の二人のピッチャーに対して正捕手1人と、キャッチャー候補が3人はいた。
その中でも、カブは一番年少で相方が居なくオレが緩めの球を投げてた。
よく年の差夫婦などと呼ばれて、オレは...そうだ、あの時はクロを。
「まさかお前、あの時の事」
「思い出したか...俺はりおが、オレの妻と豪語してから浮気はしてねぇ」
こえーよ!!!!!
てか、ガキの頃の妻発言は...確かにしたが。
「まてまて、クロ、いや、カブ?」
今更になって呼び名が、どっちにしたらいいんだよ!
「...何でもいい」
いやうん、何でもいいのわかるけど、混乱は混乱を呼んで、オレは今の裸の状況とか、全てすっ飛ばしてクロの上に乗り上げた。
「お前いつから!」
「...最初から」
仕組まれた...出会いだったって訳だ。
オレは、こんなガキにまで騙されんの?
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