53 / 107

第53話

オレは放心状態で高くもない、家の天井を見て、それからゆっくりとクロを見る。 シンと、静まった室内でギシリと、クロの動くタイミングでベットが揺れ、オレの方へ身体を向けた。 「りお、野球やってたろ?」 オレの方を見て、少し伸びたオレの前髪をクロがずらしながら聞く。 「あ」 そう、オレは小学生の頃野球をやっていたんだ。 ピッチャーで、打撃は良くなかったけど小学生の時は、エースだった。 高校に入る前に、甲子園に行きたいと願ってた思いは今だって思い出せる。 「なんで...?」 でも、やっていたのは中学迄で、大きな大会に出たのも数回、成績を残した投手ではなかった。 「リトルにいただろ、その頃から俺はりおを知ってる」 そして、ハッと思い至ったのは、オレが中学の時にいた、小学生キャッチャー。 「鏑木(かぶらぎ)...覚えてねぇか?りおはカブって呼んでた」 オレの中に思い起こされるのは...小さい身体で一生懸命ボールを捕ってくれた、カブ。 当時、野球するからと親に髪を刈られて、チクチク剣山みたいな頭だった。 「っ!?は!?な、なんで!?ハゲカブ!?」 「ひでぇ...が、それだ。」 そうか、それか! いやいや待て待て! 「カブって、甲子園いったろ!?」 噂でオレがリトルをやめてから聞いた話だ... あの時代、不作でなかなかピッチャーが居なくてオレと2個下の二人のピッチャーに対して正捕手1人と、キャッチャー候補が3人はいた。 その中でも、カブは一番年少で相方が居なくオレが緩めの球を投げてた。 よく年の差夫婦などと呼ばれて、オレは...そうだ、あの時はクロを。 「まさかお前、あの時の事」 「思い出したか...俺はりおが、オレの妻と豪語してから浮気はしてねぇ」 こえーよ!!!!! てか、ガキの頃の妻発言は...確かにしたが。 「まてまて、クロ、いや、カブ?」 今更になって呼び名が、どっちにしたらいいんだよ! 「...何でもいい」 いやうん、何でもいいのわかるけど、混乱は混乱を呼んで、オレは今の裸の状況とか、全てすっ飛ばしてクロの上に乗り上げた。 「お前いつから!」 「...最初から」 仕組まれた...出会いだったって訳だ。 オレは、こんなガキにまで騙されんの?

ともだちにシェアしよう!