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第77話
結局、クロが戻ると信じて作ったシチューが、残った。
もちろんオレも食えなかった。
食欲もなくて、ベットに寝転べばあんなに考えてたクロのことが一瞬飛んで睡魔がオレの頭を揺らしふわふわとした感覚に従って眠った。
目は閉じてても、朝の鳥の声や、人々が動く気配は感じてて、神経が眠っていない事を誇示すると、さすがのオレもその感覚が耐え難くて目を開いた。
朝7時。
クロが戻ると言って出ていったのは、夕方の15時だ。
17時には戻る予定が狂ったとしても、連絡すらない...と言ってもオレの番号をあいつは知らない。
休みでよかったと重だるい身体で、シチュー見たら馬鹿みたいに泣けた。
心が痛みを訴えて、ゴロゴロ転がってもがき苦しめば、気持ちは晴れるのかと横になるけど本当に苦しい胸の中は痛みが継続したままで落ち着きを見せてはくれない。
視線を巡らせればクロが使っていたパジャマが目に入り無意識にそれを抱き締めた。
「ばか...やろう、何が...2時間だよ、嘘つき...」
思いつく言葉はそれしかない。
オレはクロに好きだと...そばに居てと、言えなかったのだから。
「捨てられて当然か」
あの時漏らした本音...なぜ誤魔化したのか。
恥ずかしかった。
こんな年下に溺れるオレが、オレの虚勢が仕事をきっちりしてくれた。
なぜそれに安心してしまったのだろうか。
考え出したらキリがなくて、虚しさに支配される。
朝が来て、昼近くに何故か夏樹が遊びに来たけどオレは話す元気すら無くて...クロが消えて、2日...明日から仕事かまた始まるのだと自分に言い聞かせる。
身体が重くて、クロを拾ったあの前の生活に戻るだけだと言うのに...簡単に切り返しがつかなくなっていた。
「すげーな、好きってだけでこれかよ。佐久間見たくクロが最低ヤローなら、切り返しもついたのかな...」
一人で話す空間にオレの声を拾う人は誰もいなかった。
「...夏樹、そういや居たな」
テーブルの上に置かれた、手紙。
多分オレの反応が無くて帰ったんだろうな。
ペラっと捲れば数行の文字。
松へ
クロに捨てられたって、言ってたよね...クロはそんな子じゃない。
今度は松が拾われたらいいよ!
簡単に言ってくれるなと、薄く笑った。
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