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第89話
4試合目、均衡してた点数が動いてクロのチームが優勢になった。
恐らく、3点も入ったからこの後もしかしたら...
クロは、未だオレに気付かないでキャッチャーと話したり球受けたりとやってるのを見るとなんか、切なくなった。
オレ、ほんとにこの男に愛されてるんだろうか?
あれは...ひと時の、幻かなんかじゃないのか?
そんな思いが、ドンドン溢れてくる。
────20番、キャッチャー鏑木
そのアナウンスにハッとして、バックスクリーンを見たら、2番の人との交代で...
公式戦をする、クロが見れると喉を鳴らした時だった。
「キャー、鏑木くーん!!!カブー!キャー」
黄色い声が耳を劈《つんざ》く。
そして横では、チッ!と舌打ちが入る辺り、夏樹は歪まねぇなと思う。
「クロー!!!」
そして夏樹も大音量。
お前もかよ!
マスク付けて、マウンドへ駆け寄る姿に、胸がぎゅっと捕まえられた気分で、オレはその姿を目に焼き付ける。
ファンと何ら変わらないのだ。
昔のクロを知っていようが、抱かれてようが、オレは...黄色い声で歓声上げてる女の子達と全く変わらない。
「松...そんな辛そうにしてたら、苦しい...」
夏樹に言われるまでそんな顔していた事すらわかってなかった。
「なんか、ごめん」
もっと、マンガのような劇的再会でも期待してたんだろう。
でも結局、最終の9回まで何事もなくクロのリードで打たれはしても、点数に結びつくことはなく進んだ。
そして、とうとうグラウンドから、ベンチに戻るクロが足を止めてこっちを見上げてきた。
「まっ、松、クロちゃん見てるから!てっ、手!振って!」
オレは思い切りガクガク揺すられてゆっくりクロの顔を確認する事さえ出来なかった。
「ほら...」
夏樹に言われて手を振ると、クロはマスク付けて、ベンチの中へ戻ってしまった。
あれ、やっぱり来なきゃ良かった系か。
あげた手を下げれずに肩を落とした。
無視かよ!クソっ。
涙が...出ても仕方ねぇだろうが!
夏樹がハンカチくれたから、それで拭いといた。
「サンキュ...ずっ」
「んっ!」
ぎょっとしたが、夏樹もすげー顔で泣いてた...どこまで感情移入してくれてんのかね。
胸が切なくなって、夏樹の肩を抱いて伝える。
「悪い...夏樹泣かすつもりじゃなかった」
「ずっ。いいの...ないで、いいんだぉ、まづぅ...」
オレは我慢できるから。
グッと手に力を入れ、腹のしたに力をいれた。
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