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第90話

クロはオレを見た...視線もあったのにすぐにベンチに戻ってオレの手も振り返さなかった。 それが答えなんだよ。 雑誌用に適当に答えろとか言われて、アイツ適当なんて似合わないからオレの喩《たと》えを出しただけだ。 だから、オレは今日この気持ちに決着を付けなければならない。 そもそもプロの選手相手に、惚れた晴れたはアナウンサーの仕事だろ。 偏見かも知れねぇけどそれくらいの勢いで、アナウンサーとの報道を見るしな。 そうなればオレはこの思いに終止符を打ち付け新しい道を歩かなくちゃならない。 「振られたな」 ぽろっと、漏れ出た言葉に夏樹がオレに抱きついて大泣きを始めた。 凄まじく悪目立ちする。 とりあえず抱き締めてポンポン背中叩いてたら... 鉄の格子が、ガリャリ! と音を立てたから驚いて音源を確かめる為に前をみたら、クロが...オレ達に向かってボールを投げたのだ。 周りはキャーとか、うわっ!とか声してて、オレもキョトンとするしかできなかった。 「りお!離れろ!」 そう叫んでる、クロに苛立った。 さっきは無視で今度は嫉妬かよ! 半年以上も放置した癖に!ふざけんな! 「お前は試合だろ!早く行けよ!」 つい、冷たく返してしまった。 そしてベンチから出て来た数人に引き摺られるように帰って行った...何なのあいつ。 「クロちゃん、妬いたの?」 「...知らんわ」 無視してこれはないだろ、オレの気持ちどこまで揺らしたいんだよ! 忘れなくちゃならねぇと考えた途端これかよ。 どんだけオレに残酷な仕組みになってんの!? 「クロちゃん、ずっ...無視してたのに」 その言葉にオレは頷いた。 「お前も感じたよな?やっぱり無視だよな?」 そしたら、夏樹も頷く。 「ん、でも、あのクロちゃん怒ってたよ」 結構な球威で、格子にぶつけなかったらあそこまで音ならねぇし。 どんだけ肩強いんだよ...。 「わかんねぇよあいつの事なんか...」 オレが答えられることはひとつも無かった。 周りはオレに冷たい視線寄越すし...。 クロの攻撃対象がオレらだったから、周りからは敵認識されたらしく居心地も悪ぃ。 まだ、9回表の中だったが... 「帰ろう」 オレが切り出したら夏樹も素直にうなづいたから、荷物纏めて席を立った。 早く帰れみたいな視線受けながら、オレ達は階段へと向かう。

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