4 / 38

第4話

これだから昔の知り合いというのは厄介だ。思い出したくないことを引っ張り出してくるんだから。 「お前は結婚してるみたいだな」 左手の薬指を見ながら話題を逸らす。視線も逸れて、彼の目は自分の指輪に向けられた。 「それこそ、もう10年になるよ。子供も2人いる、6歳と3歳」 またくしゃっと笑った。 「へぇー、そりゃあ幸せだろうな」 心にもないことを言いながら、とりあえず微笑む。 「いやぁ、まぁ、普通さ。昔と変わりないよ、あんまり」 「変わりあるだろさすがに」 「うーん、あまり自覚はないけど」 妻とは今の勤め先で出会ったとのことだった。パートに出ながら子育てしているという、本当に絵に描いたような家族構成だった。 「お前は? 結婚してるのか?」 厄介な話題を振り返された。 「俺は独りもんだよ」 そのまま返すと 「誰かいい人いないのか?」 テンプレートのような返しがくる。 「いないね。作ってない」 「そうか、誰かしらいそうなのにな」 「まぁ、困ってはいないさ」 「そうか」 会話が一旦途切れた。彼は上着を脱ぎながら、まぁ、とため息を吐くように言った。 「いろんな人生があるからな。その腕見ると思うよ」 そして、竜の鱗の描かれた俺の腕を見るのだった。

ともだちにシェアしよう!