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第5話

「すごい彫り物してるじゃないか」 「ん、ああ」 見慣れたものだけど、学生の頃はもちろん彫ってなかった。 「どうしたんだ? 会わないうちに随分ワイルドになったみたいだな」 「まぁいろいろあったんだよ」 「反社会的な方じゃないよな?」 「それはない」 「即答だな」 「ただのファッションだよ」 ファッションにしては彫りすぎてはいるんだけど、気に入ってるから勘弁してほしい。 この両腕のおかげで、そこらのチンピラに因縁つけられることもなく、穏やかに暮らしているんだから。 「温泉とか行けないだろ」 「あー、温泉なんかもう何年も行ってねぇなー」 そういう娯楽を1つ減らしてしまったことは残念ではある。 「うちの社でも、その彫り物が話題になったんだ。どんだけイカツイ奴がこんなパン作ってるんだろうってな。まぁ、まさか知り合いだとは思ってなかったけど」 奴はカバンを弄った。出て来たのは、名刺と一枚のプリント。 渡された名刺には、それなりに有名な出版社と主婦向け看板雑誌の名前、そして彼の名前が書かれていた。 「俺は今、ここの編集者やってるんだ」 「へぇー、編集者ねぇ」 貰った名刺を眺める。今までの人生で名刺を貰ったのは初めてだ。 「兄さんパンってのが随分話題になってたから、今回の特集組もうってことになってな」 「特集っ?」 出版社と雑誌の名前を見てからの特集と聞かされて、さすがに驚いた。 「なんだそれ、俺何も聞かされてねぇんだけど、どういうことだ?」

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