8 / 38
第8話
「よし、これだけ情報が集まれば十分だ、ありがとう」
写真も撮られ、顔が写ってないことを確認し、インタビューを終えた。ちょうど1時間というところだった。
「精一杯、いい記事にしてやるから」
爽やかに微笑む。昼下がりのカフェに似つかわしい、柔らかな笑顔だった。
それに比べて俺は表情筋がないみたいに無愛想だった。
「ま、好きに書いてくれ。じゃあな」
用が済んだから帰路につこう。少しふらついて、いつものバーで一杯やって。
これからの予定を頭に浮かべながら席を立つ。
彼に連絡先を聞こうという気は、これっぽっちもなかった。
「おいおい待てよ、せっかく会ったんだし、もう少しゆっくり話さないか?」
声をかけられなければ、そのまま立ち去っていただろう。
「ゆっくりって、俺はともかくお前は仕事の途中だろ、ゆっくりしてられるのかよ」
スーツ姿を見ながら言うと、少し慌てながら今じゃなくて、と返される。
「今夜空いてないか? いい店知ってるんだよ」
手首を軽く曲げる仕草をした。
「強かっただろ、昔。久しぶりに飲まないか?」
「……」
「奢るから、もうすぐボーナス出るし」
全然乗り気ではなかった。とはいえ、人の誘いを無下にするのも得意な方ではなかった。
「じゃあ、少しなら」
結局、成り行き任せみたいな返事をしてしまっていた。
「本当か!よーし、じゃあ今夜な、本当に久しぶりだよなー、楽しみにしてるよ!」
目を輝かせる様子を見たら、悪い気もしないのだった。
ともだちにシェアしよう!