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第9話
午後8時。
指定された場所は、数駅先の街の繁華街にあるライブバー。
話には聞いたことあったけど、来たことはない店だった。
薄暗い店内には奥にステージがあって、アコギを弾き洋楽を歌う兄ちゃんがいた。
あんまり広くない店内に、客は十数人というところ。
「お、来たな、こっちこっち!」
手前のカウンター席に、昼に会ったスーツがいた。
「ありがとな来てくれて!」
無駄にテンションが高い。手にはグラスのビールが握られていた。うわぁ、すげー絡みづらそう。
「何、お前もう酔ってんの?」
隣の席に座る。酔ってねぇよと言うものの、まあまあ気持ちよくなってはいるみたい。
「仕事終わりはな、酒が回るのさ」
「そうかよ」
「しかも薄暗いとくりゃあ、もう無防備になるだろ」
カウンターに肘をついてヘラヘラ笑っている。思い出した、そうだ、酔うとこんな奴だったっけ。でも記憶なくしたとかいうことはなくて、マックスでもこんなもんだったなって。
適当にハイボールを注文し、乾杯する。
「久しぶりの再会に乾杯だな!」
「いちいち言わなくていい」
テンションの差が酷い。
キラキラと輝いた青春を送ったこいつは、相変わらず爽やかでドラマのセリフみたいなことを平気で言う。
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